その背景には、このドラマに熱狂した10代後半から30代にかけての女性たちが歴史的に特異な層だったことが大きい。高度成長期に生まれ、バブルを謳歌し、男女雇用機会均等法(86年)によって社会進出も促進された、日本史上最も裕福でイケイケだった女性たちだ。そこからアッシー、メッシー、ミツグといった、男性が尽くす現象も生まれ、おやじギャルと呼ばれる新種(?)も出現した。

 そういう女性たちにとっては、それまで当たり前とされてきた恋愛スタンスはいかにも飽き足らず、その感性や欲望にしっくりくる斬新なものが切実に求められていた。そこにピタリとハマったのがこのドラマであり、月曜9時には銀座からOLが消えるという伝説も生まれたわけだ。

 いわば、それまでの恋愛観へのカウンターとしてこのドラマは機能した。大げさにいえば、革命だ。そして、カウンターや革命である以上、攻撃され、打倒される対象が必要になる。そこで、割りを食ってしまったのが、有森也美が演じたさとみだった。

 こちらはリカとは対照的に、男に尽くしながら恋愛を結婚へとつなげていくタイプ。優しく潔癖だが、涙も武器にできる女性だ。ところが、リカ信者にとってはその姿が依存的でずるいものになってしまう。彼女たちは、さとみがカンチと過ごすシーンを「悪魔の時間」と呼び、おでんを持っていけば「おでん女」と揶揄した。

 プロデューサーの大多亮も、こう振り返っている。

「こんなにさとみという役が世の女性の反感を買うとは思ってませんでした(笑)リカの台詞のひとつひとつがあんなふうに受け入れられるとも思ってなかったし」(「月9ドラマ青春グラフィティ」小池田しちみ)

 気の毒なのは、その反感が役者にも及んだことだ。有森本人まで嫌われ、脅迫状が届いたという。彼女はそれまで、映画「星空のむこうの国」などで正統派のマドンナ女優としての地位を確立。松竹の大船撮影所50周年記念映画「キネマの天地」で往年の大女優・田中絹代がモデルのヒロインを演じるなど、将来を嘱望されていた。が、このドラマを機に、ちょっと使いづらい女優になってしまったといえる。

次のページ
若い女性に「リカの恋愛」はどう映る?