シーズンが始まると、その“意識”は確実にヤクルトの選手たちに根付いていった。実際、当時の小川淳司監督(来年から球団GM)も「(変わったのは)選手の意識じゃないですか。つなぎの意識だったり、野球に対する考え方だったり……。意味のある凡打というか、そういうところもですね」と話している。

 意味のある凡打──。これは、この年からヤクルトの選手たちがしばしば口にするようになったフレーズだ。凡打に倒れたとしても走者を先の塁に進め、時にはホームにかえす。たとえアウトになっても、そうしたケースではベンチに戻ってきた選手をナインが総出で迎え、ミーティングで石井コーチがあらためて称えることもあったという。

「(『意味のある凡打』は)去年から言ってましたけど、僕は今年はかなり意識してます。もちろん2点、3点入ったほうがいいに決まっているんですけど、最低限というか(内野ゴロで)1点でも取れるんであれば、ホームランやヒットよりもゴロを打つほうが難易度は低いわけですから。凡打を怖がらずっていうか、凡打ではダメと思わずにやるようにしてます」

 今年のシーズン序盤、そう話していたのは主に5番を打っていた雄平である。特に4月は24試合の出場で18打点を挙げ、「打点が多いのはそこの意識があるからだと思います」と話していた。

 2013年にはシーズン60本塁打の日本新記録を樹立したウラディミール・バレンティンも、ここ2年はたまのリップサービスを除けば目標としてホームランの数を挙げることもなくなり、口を開けば打点、打点になった。

「点を取らなきゃ試合には勝てない。だから、それ(走者をかえすこと)がオレの仕事だよ。内野ゴロでも点が入る(状況)なら、自分を犠牲にしてでもランナーをかえす。それがチームの勝ちにつながるなら、それでいいじゃないか。イシイ・コーチともそういう話をしている」

 バレンティンは昨年、60本塁打を放った2013年に記録したキャリアハイに並ぶ131打点を挙げ、自身初の打点王に輝いているが、こうした意識とも無関係ではないだろう。

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情熱、引き出しの多さは驚異的