「(バッターは)どうしてもキレイにヒットを打ちたい、ホームランを打ちたいっていうところに走りがちなんです。いかに1点1点を積み重ねていくかっていうところを目標に、個人個人じゃなく8人、9人が打線としてつながりを持って、どうやって束になっていけるかっていうところを選手に意識させていきたいですね」

 石井コーチはヤクルト入団当初からそう語っていたが、雄平やバレンティンの話からはそうした考え方がチームにしっかりと根付いたことがうかがえる。昨年の2位から今年は最下位に転落し、チーム打率もリーグワーストの.244に終わったヤクルトだが、それでも656得点はリーグトップの巨人とわずか7点差の2位。これも「琢朗イズム」のなせる業だろう。

 もっとも、石井コーチの素晴らしさはそれだけではない。広島時代にも“同じ釜の飯を食った”ヤクルトの河田雄祐外野守備走塁コーチが言う。

「情熱があるよね。キャンプでもシーズン中でもそうだけど、早出から長い時間、継続して(選手と)練習できるっていうのが、タクちゃんの一番すごいところかな。オレもいろんなバッティングコーチと一緒にやってきたけど、あそこまでの人はいない。群を抜いてるよ」

 その情熱で、ヤクルト2年目の今年も若手、ベテランを問わず、シーズンを通して熱のこもった指導を行っていた。とにかく指導方法の引き出しが多く、ティー打撃1つ取っても何をさせるかは選手によってさまざまである。

「石井コーチはそれぞれの特徴を分かってくれた上で、すごく熱心に取り組んでくれました。僕の場合は『お前は左手の使い方が下手だから』っていって、ノックのような練習もしてました」という4年目の山崎晃大朗は、ティー打撃でトスされたボールを打つのではなく、左手の使い方を意識しながら自らボールを上げて打つ練習を続け、8月には3割を超える打率を残した。

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セ新人王・村上に言い続けた「何でも一番を目指せ」