紀平は初戦・オータムクラシックの前に左足首をひねった関係で、現在構成に3回転ルッツを入れられず、4回転サルコウの練習も十分にできていない。トゥルソワに勝つには、怪我を治して本来の構成に戻し、さらに4回転を入れることが必要になってくる。

 その上で、紀平の強みは総合力だ。ジャンプだけでなく、ステップ、スピンの出来栄え点も上げることで得点を上げていきたい。また、衝撃的なシニアデビューを果たした昨季、トリプルアクセルとともにその快進撃の原動力となったのは、シニア一年目とは思えないほど高い演技構成点だった。演技構成点で評価される質の高いスケーティングや豊かな表現力は、フィギュアスケートにはなくてはならない部分だ。

 オリンピックシーズンの2季前である今季、紀平は挑戦の意味で、SP・FSともにあえて難しい曲を選んでいる。踊る能力の高い紀平はシーズン序盤から音をきちんと表現しているが、まだ感情が十分に乗るところまではいっていないように思われる。観る者も引き込むところまで滑り込んだ時、紀平の本当の力が発揮されるのではないだろうか。

 トゥルソワが高難度ジャンプで驚異的な演技を見せるのなら、紀平は音楽と調和した美しい演技を見せたい。ジャンプ以外の要素やスケーティング、表現力も大切だということを、紀平にはその滑りで示してほしい。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」