「一生に一度だ。」というキャッチフレーズを信じて世界最高の戦いを見てみようと思った観客は、極めてシンプルに、目の前で起きている生身の肉体のぶつかり合いの迫力に驚き、倒れても起き上がり、身体をはってチームのために戦う選手の姿に感動したはずだ。その驚きや感動が、テレビを通じて、さらにソーシャルメディアでも社会に広がっていった。

 これまでは外国出身選手が多いと批判されてきた日本代表チームの構成が、「One Team」というキャッチフレーズのもとで、多文化共生時代のモデルのように取り上げられ、個性豊かな集団と受け止められたことも大きかった。ただでさえ、先発メンバーだけで1チーム15人と選手数の多い団体競技だけに、ファンも「自分のお気に入り」を見つけやすかったのではないか。2015年W杯では五郎丸歩1人が引き受けていた注目も、今回は、キャプテンのリーチマイケルはもちろん、田村優、松島幸太朗、福岡堅樹といったプレーが目に付きやすいバックスだけでなく、フォワードの姫野和樹や、縁の下の力持ち的存在であることが多いフロントローの稲垣啓太や具智元、堀江翔太らまで分散していた。

 そして、事前に書けるはずもないのに、各試合の展開は、関心と感動を高まるような見事な筋書きになっていた。

 開幕戦のロシア戦ではファンが格下と思っていた相手にトライを先取されるなど苦戦し、試合後には豪胆そうに見える司令塔の田村が「緊張で10日寝られなかった」と試合後に明かしたことで、ワールドカップという舞台で戦うことがどれだけ厳しいことかを、まずファンに印象付けた。

 続くアイルランド戦については「ここでは良い試合をして、勝負は最後のスコットランド戦」と思っていたファンが多かっただろう。しかし、蓋を開けてみれば2トライを奪われたところからの逆転勝ち。決勝トーナメント進出という目標が一気に具体性を帯び、ファンの期待は高まった。加えて、試合途中に相手ボールのスクラムに押し勝ってペナルティーキックを得た時、最前列で組み合った具智元が雄叫びをあげた姿に、ファンは心も揺さぶられた。同時に、日本のゴールキック時には口笛一つ吹かずに静寂を保ったアイルランドサポーターと、失意の中でも花道を作って日本代表を称えたアイルランド代表の姿は、「ノーサイドの精神」のあまりに見事な具体例で、「にわか」ファンにもラグビーの持つ価値を強く印象付けたはずだ。

次のページ
まだまだ続いた日本の快進撃