強豪のアイルランド戦に勝ったことでグループステージ突破が確実になったかと思えば、さにあらず。2015年大会で3勝を挙げながら決勝トーナメントには進めなかった理由の「ボーナス点」問題が今大会も浮上し、ファンを決して安心させてくれない。このため、3戦目のサモア戦は勝利だけでなく4トライを取れるかに注目が集まることになった。勝利は確実だが3トライ止まりかと思われたところで、最後の最後に松島がトライ。その劇的なプレーが日本ファンを盛り上げただけでなく、直前にサモアが自らの決勝トーナメント進出に向けたわずかな可能性にかけたプレー選択をしたことが日本のトライにつながっただけに、最後まであきらめないサモアのスポーツマンシップもまた、ラグビーの魅力を高める結果となった。

 そして、プールステージ最後のスコットランド戦だ。後半2分に4トライ目を奪ってボーナス点も確保し、19点差をつけて快勝かと思われたところから、伝統チームの必死の反撃に遭った。終盤、攻め立てるスコットランドに対して、日本は自陣でひたすら守る。それは1990年代の一大ラグビーブームを作り出した早明戦の「攻める明治、守る早稲田」というシーンを思い出させた。耐え忍んで守り抜く姿は、やはり日本人に強く訴える。守り切って最後に相手ボールを奪って試合を終えた展開は、快勝だったらなかっただろう大きな感動を観客やファンに与えた。53.7パーセントの最高視聴率を記録したのも試合終了の瞬間だった。

 最後の試合となった準々決勝の南アフリカ戦は、2015年W杯で金星を挙げた相手というストーリーのある試合。今度は優勝二度の強豪にノートライに抑え込まれて世界4強のレベルを痛感させられたが、試合終了の合図の後ももう1トライとプレーを続けた南アフリカの攻撃を守り切り、最後は相手にあきらめさせて試合を終えたことで、ファンの日本代表への想いはさらに高まったはず。同時に、日本に勝った南アフリカがどこまで勝ち上がるのかという関心が、準決勝の高視聴率の一つの理由だろう。

 最後に、日本人らしいおもてなしの心も見逃せない。海外のチーム同士の対戦だけでなく、日本戦であっても相手チームの国歌を覚えて歌っている日本人ファンが多数いた。また、チームと一緒に入場するマスコットの子どもたちも、多くが自分の担当チームの国歌を歌っていた。過去のワールドカップにはない光景だ。国歌斉唱という一部分であっても自分も大会に参加しているという実感が、さらに今回のラグビーワールドカップを身近なものにしたに違いない。