では費用については、どのように支払われているのでしょうか。これも個々の契約内容によって異なるため一概には言えません。専属ドクターの契約料は、チームごとに決められた金額が支払われています。ですが、検査代や治療代については、たいてい一般診療と同様にその都度実費が支払われているようです。メディカルチェックでは一人当たりいくらと決めて、合計人数で計算するところもあります。

 チームが専属スポーツドクターの契約を結んでいる場合、選手は自分の好きな病院にかかれないのかといえば、そんなことはありません。日本では多くの場合、まだ個人の自由がきき、選手の意思が尊重されています。一方、米国では契約事項が厳格に定められているため、チームに所属する選手はチームで決められた病院でしか治療や手術を受けることができません。メジャーリーグでプレーしている選手が、日本に一時帰国して手術を受けてくるなんてことは不可能に近いのです。

 日本では契約がそこまで厳しくはありませんし、一つの病院が複数のプロチームのチームドクターを請け負っていたり、一人のスポーツドクターがさまざまなチームの選手を診ていたりするケースも珍しくありません。日本ではまだ十分な秘密保持契約の規定がなく、守秘義務については今後、米国式の契約社会の流れをくんでより厳しくなっていくかもしれません。

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松本秀男

松本秀男

松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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