メディアやネットなどで情報を目にすると、あたかもそれらが原因のように感じてしまうこともあるかと思います。実際、今回のテーマを取り上げるべきか考えたときも悩んでしまいました。

 本コラムが「何が原因なのか」「誰が原因なのか」といったような帰責論を助長してしまうことは私の望むところではありません。そのような帰責に注力するのは予防や治療法の開発を担う学術の世界に委ねるべきものだと考えています。

 おそらく、リスクが全くないという人のほうが稀少なのではないでしょうか。このコラムが帰責の議論につながるのではなく、似たような境遇にいる人のモヤモヤを少しでもほぐす一助になればと願っています。

 特に、出産や妊娠、子育てに悩んでいる人たちは、大きなきっかけがなくとも精神的に動揺が生じる可能性があります。読者の中には、そのような人やその周囲で心配されている人もいるかもしれません。ネットやメディアなどを通じて様々な情報を集めてみようということも大切かもしれませんが、科学的知見に基づいた判断はなかなか難しいものです。

 強い不安を感じたり、気になったりすることがありましたら、一度、医療機関に相談してみてもよいかもしれません。精神科でなくても信頼のおけるかかりつけ医でよいと思いますし、医療に抵抗があれば発達障害の支援を行っている福祉団体の活動をみてみるのもよいかもしれません。

 特定のリスクのみが注目されることで、関わる人に対して何らかの中傷が生じたり、読者の皆さんの可能性を必要以上に制限したりすることにつながらないことを願っています。

【引用文献】
【1】Wu Sら. Advanced parental age and autism risk in children: a systematic review and meta-analysis. Acta Psychiatr Scand. 2017 Jan;135(1):29-41. doi: 10.1111/acps.12666.
【2】Veroniki AAら. Comparative safety of antiepileptic drugs for neurological development in children exposed during pregnancy and breast feeding: a systematic review and network meta-analysis. BMJ Open. 2017 Jul 20;7(7):e017248. doi: 10.1136/bmjopen-2017-017248.
【3】Goodrich AJら. Joint effects of prenatal air pollutant exposure and maternal folic acid supplementation on risk of autism spectrum disorder. Autism Res. 2018 Jan;11(1):69-80. doi: 10.1002/aur.1885.
【4】Magnusson Cら. Maternal vitamin D deficiency and the risk of autism spectrum disorders: population-based study. BJPsych Open. 2016 Apr 7;2(2):170-172.

【参考文献】
(本コラムでも触れていない環境要因などがまとめられている最近の総説で、入り口としてもよい文献の一つだと思います)
Bölte Sら. The contribution of environmental exposure to the etiology of autism spectrum disorder. Cell Mol Life Sci. 2019 Apr;76(7):1275-1297. doi: 10.1007/s00018-018-2988-4.

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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