また、影響の程度が大きいものにも触れておきたいと思います。先述の中では、母親を介した妊娠中あるいは授乳中におけるバルプロ酸への曝露でリスクが17.3倍であったという報告があります(引用2)。

 しかしながら、バルプロ酸がASDと関連していることはおそらく真実だと思われますが、影響については全例で同程度かと問われると、飲んだバルプロ酸の量や時期、期間も検討する必要があり必ずしも正しいとは限りません。

 その他の関連が疑われている要因についても特徴や事情はそれぞれですが、重要なことは、いずれの環境要因でも単一では必ずASDとなるものは分かっていないことです。

 最近、遺伝情報だけでも、環境要因だけでも説明できない現象を“gene-environmental interaction (遺伝子と環境因子の相互作用)”と呼んでいます。例えると、足し算(あるいは掛け算)のようなもので、「遺伝情報という土壌があって、そこに様々な環境要因が影響しあって、結果によっては障害的な域に達する」という考え方と言えるかもしれません。

 また、今回のようなコラムで取り上げると環境要因が悪いもののように感じるかもしれませんが、必ずしもそういう訳ではありません。葉酸(引用3)やビタミンD(引用4)などのように“適切に”取り入れることで、リスクを下げる可能性が報告されているものもあります。

 このように、遺伝情報と環境要因が複雑に絡み合う中で、どこまでいったらASDとなるかについては結論が出ていません。つまりは、遺伝情報を含め、どの環境要因でも「これが原因だ」と判断することはできないことになります。

 先述のお父さんの年齢が与えうる影響を振り返ってみましょう。あくまで先述の条件を前提とした話ですが、年齢が高いお父さんから生まれてくる子どもとそうでない場合を比べてもASDとなると予測される確率の差は100人中1.65人です。お母さんの年齢による影響を考えると、さらに差は小さいものになるでしょう。この数字をどう感じられるでしょうか。

次のページ
科学的知見に基づく判断は難しい