――車内で本を読んだり、スマホを見たりするとてきめんです。あれはどうしてなんですか?

 三半規管や内耳が一番刺激を受けるのは、頭が上下するときなんです。めまいも顔を洗う、靴紐を結ぶ、下を向いてシャンプーする、目薬をさす、上の扉を開けるなど、頭が上を向く、下を向くときに起きるという人は多い。

 本を読むときは下を向き、細かい字を追うことでさらにめまいを誘発します。ダブルパンチなので絶対ダメですね。近くではなく、遠くを見ましょう。

 しかし、本質的な対策は脳を適応させること、練習させることです。人間の小脳は学習するので、より強い刺激を経験すると弱い刺激には耐えられるようになります。なので辛いかもしれませんが、一度経験してみる、いろいろなドライバーの車に乗るようにすることで慣れていく方法もあります。

 私がオススメしたいのは平衡トレーニングです。普段、平衡機能を鍛えるためにめまいの患者さんに指導している独自のメソッドで、『寝ているだけでは治らない! 女性のつらい「めまい」は朝・夜1分の体操でよくなる!』(PHP研究所)から、今回は初級・中級・上級の3つを紹介します。

 トレーニングに即効性はありませんが、1日1セットを半年前~最低でも1カ月程続けると違いが出てくると思います。夏休みの家族旅行で乗り物酔いした方、今年の遠足には行けなかったという方は、次のチャンスまでにやってみてはいかがでしょうか。

※めまいを誘発し、訓練するためのトレーニングです。気分が悪くなることがあるのでご注意ください

<初級> ゆっくり横
きき手の親指を立て、体の正面に腕を伸ばす。顔は動かさず、親指の爪を見ながら、腕を左右へ動かす。「いち」「に」と言いながら、1往復1秒ぐらいのペースで10往復、爪を追う。

<中級> 左右
きき手の親指を立てて、体の正面に腕を伸ばす。親指の爪を見ながら、頭を左右に回す。「いち」「に」と言いながら1往復1秒ぐらいのペースで10往復、頭を左右に動かす。

<上級> 上下
聞き手を体の正面に伸ばし、その親指を内側に水平に寝かせる。親指の爪を見ながら、頭を上下に動かす。「いち」「に」と言いながら1往復1秒ぐらいのペースで10往復。(首の調子が悪い人は無理しないようにしましょう)

――大人になって乗り物酔いは克服したつもりでいましたが、この動きはかなり辛いです。

 このトレーニングは、めまいのチェックにもなります。頭と一緒に目が一度離れ、後から親指に戻ってくる、爪が動いて見える、クラっとするという人は耳の三半規管の機能低下が隠れていて、めまい予備軍かもしれません。もしくは片頭痛によるめまい、その両方を持っている可能性もあります。そういう人はお腹も壊しやすいや腹痛がよく起きます(腹部片頭痛という)。

 良性発作性めまいは、小児の発作性、繰り返す(耳鳴りや難聴がない)めまいの代表です。その子たちの多くは車酔いをすると考えられ、家族に片頭痛がいるなど片頭痛との関連が深いのです。

「車酔いは病気じゃない」「体質だよね」と考える人が多く、みなさん車酔いという症状ではなかなか病院まで来ませんが、めまい外来に来た方を中心に聞いてみると、3人に2人は乗り物酔いを経験していました。両者はどうも関係性がありそうなのです。

 そういう場合もトレーニングで改善する可能性が十分にあると思います。

 ちなみに、今まで乗り物酔いが無かったのに、乗り物酔いになったという人はめまい予備軍と考えて良い。私も体調が優れないとき、めずらしくお酒を飲んだ翌日などにめまいや乗り物酔いを経験したことがあります。二日酔いは頭痛のほうに気を取られがちですが、同時にめまいが誘発させる人も結構います。アルコールが血中から内耳のリンパ液に移行し、加えて小脳機能の抑制をするので、大人の場合、旅行前や旅行中は嗜む程度が良いですね。

●あらい・もとひろ/1964年生まれ。埼玉県出身。医師・医学博士。89年に北里大学医学部を卒業後、国立相模原病院、北里大学耳鼻咽喉科を経て、現在、横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科部長。北里方式をもとにオリジナルのメソッドを加えた「めまいのリハビリ」を患者に指導している

(聞き手/AERA dot.編集部・金城珠代)