※写真はイメージです(Getty Images)
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 摂食障害が世間に認知され始めたのは、80年代だろう。米国の歌手、カレン・カーペンターの急死や、英国のダイアナ妃の葛藤が日本でも注目された。また、90年代には宮沢りえの「激痩せ」が騒がれることに。筆者のもとにもワイドショーなどから取材が来て、今は亡き梨元勝氏の前で解説したりしたものだ。

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 ただ、摂食障害は有名人だけがかかるものではない。また、当時は発症原因を母子関係に求める見方が主流で、実際、拒食症の娘を殺して母親が自殺するという無理心中事件のようなことも起きた。が、ここ10年20年のあいだにそういう単純なものでもないという理解が広まりつつある。

 そもそも、症状だってさまざまだ。拒食にしても、食べないで痩せる制限型と吐いて痩せる排出型があり、痩せられない非嘔吐過食というのもある。それゆえ、体型も痩せているとは限らず、標準だったり、肥満だったりもする。

 さらには、病気ではなく生き方としてとらえる「プロアナ」というムーブメントも生まれ、そこに救いを見いだす人も出てきた。3年前に出版された拙著『痩せ姫 生きづらさの果てに』はそのあたりをテーマにした本だ。「痩せ姫」というのは、痩せることにこだわらずにはいられない女性たちのことである。そういう人たちのなかには「死にたい」と「生きたい」とがせめぎあっていて、痩せることでかろうじて心身のバランスをとっているような印象を受けたりもする。

 とまあ、令和元年の摂食障害をめぐる事情は、じつに多様な様相を呈している。そのなかで気になる問題をいくつか紹介するとしよう。まずは、万引きだ。

■ストレスから逃れるための窃盗

 昨年12月、かつてトップクラスのマラソン選手だった原裕美子が万引きによる二度目の逮捕で懲役1年(執行猶予4年)の判決を受けた。その背景には、苛酷な体重管理がきっかけの過食嘔吐、その精神的経済的ストレスから逃れるための窃盗癖があったとされる。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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女子アスリートがみな摂食障害になるわけではない