そんな状況を受け、国は、2019年4月時点で満40歳から57歳の男性を対象に、まずは風疹の抗体検査を無料で行い、今回の抗体検査において抗体価の低いこと(HI法で8倍以下、EIA法で6.0未満など)が判明し、かつ希望する男性に対して1回のワクチン接種を無料で行う対策を始めています。

 さらに、新宿区では、妊娠を希望する女性または妊婦の配偶者やパートナー、同居人に対して、過去に風疹ワクチンの接種歴がない場合に限り、風疹の抗体検査を無料で行い、今回の抗体検査において抗体価の低いこと(HI法で16倍以下、EIA法で8.0未満など)が判明した際には、麻疹風疹ワクチンの助成を行う対策も行われています。

 私の勤め先のクリニックは新宿区にあるため、これら2つの制度に該当する男性がたくさん受診されています。どちらを使用する方がいいのか、注意して確認しなければならないのです。

 そもそも、仕事が忙しくなかなか病院への受診すらむずかしいのに、抗体検査を受けるために受診させ、さらに結果を聞きに再度受診させる必要が、果たしてあるのでしょうか。抗体価を確認せず、とりあえずワクチンを接種する。これであれば、1回の受診ですみます。

 出入国するいろんな国の人との接点が多い全日空は今年の5月に、ロート製薬は社員と将来生まれてくる赤ちゃんの健康を守ることを目的として、昨年10月に麻疹風疹ワクチンの社員を対象とした職場において集団接種を行う企業接種をすでに実施しています。

 世界を見渡すと、マレーシアやインドネシア、インドやアフリカでは風疹ワクチンは定期接種にすらなっていないため、東南アジアやアフリカで社員が活躍する企業に勤める方は、風疹の予防接種をすべきなのが現状です。

 来年には東京オリンピックが控えています。いろんな国々の人が日本にやってくるでしょう。今こそ社会全体で麻疹や風疹の予防接種を行う時なのではないでしょうか。

○山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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