なぜ日本は人口が減っているのに、イスラエルでは激増しているのか 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

なぜ日本は人口が減っているのに、イスラエルでは激増しているのか

連載「金閣寺を60回訪れたイスラエル人教授の“ニッポン学”」

このエントリーをはてなブックマークに追加
ニシム・オトマズキンdot.
エルサレム市内はどこにいても子どもの姿がある

エルサレム市内はどこにいても子どもの姿がある

Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長

Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長

 イスラエルを訪れる日本人旅行者の多くは、街で目にする子どもの多さに驚きます。まるで子ども向けのイベントがあるのかと思わせるほどに、ベビーカーを押したり小さな子どもが駆け回ったりする都心部の日常の光景は印象的です。

  日本とイスラエルは似ているところはたくさんあるけれど、人口においては対照的です。日本のみなさんはよくわかっていますが、1人の女性が生涯において産むと見込まれる子どもの数、合計特殊出生率は、日本では約1.4とかなり低いです。一方で平均寿命は伸び続けています。ほとんど移民を受け入れていない日本は、3年ごとに約100万人の人口が減っていくと予測されています。

  イスラエルでは、人口は増え続けています。GDP(国内総生産)も上昇しており、日本の1人当たりのGDP3万8400米ドルを抜いて4万200米ドルなのはあまり知られていないかもしれません。合計特殊出生率は約3.1です。これは先進諸国と比べてほぼ1人多い数値で、人口急増国であるインド、ペルー、南アフリカ共和国、インドネシアと比べても高い水準です。

 平均寿命は、イスラエル男性は80.3歳で、日本の80.6歳と比べてほとんど同じですが、女性はイスラエルが84.1歳、日本が86.8歳とまだ差があります。
 
 イスラエルの特徴として、高い教育を受けた女性が多くの子どもを産むという傾向があります。とくに二つのカテゴリーで顕著です。ユダヤ教の超正統派とイスラム教徒の社会です。7、8人の子どもがいる家庭はざらです。

 どうしてイスラエルは出生率がそんなに高いと思いますか。私は三つの理由を考えています。伝統、移民、政策です。

 まず、伝統。ユダヤ人は子どもをたくさん持つことは旧約聖書にある神の戒律に従うことと信じています。これはその通りですが、私はもう一つ大事なことがあると思います。過去2000年間にわたってユダヤ人は小さなコミュニティーで暮らしてきました。ある時には絶滅の淵に立たされました。子どもをたくさん産むことはコミュニティーの存在につながる大事なことなのです。ホロコーストの時は、ユダヤ人は600万人を失いました。この数は当時のヨーロッパのユダヤ人の約3分の2です。

 子どもを増やすことは世代をつないでいくことでもあり、これは今でもイスラエルの共通の認識だと私は思います。

 イスラエルと日本で出産経験があるハイファ大のジッピー・アイブリー准教授は、著書『文化の具体化』でこう述べています。「日本においてわずかながらある出生前診断はイスラエルでは先例がない。つまり産むこと自体に意味や価値を見いだしている」と。

 2番目の理由は移民です。71年前、イスラエルは世界中に散らばっているユダヤ人を「祖国」に帰ってこさせることを目的につくられました。移民政策は奨励され、毎年何万人もの移民を受け入れてきました。1990年代、旧ソ連体制の崩壊を受け、100万人もの
ロシア系ユダヤ人移民をわずか10年間で受け入れました。イスラエルの人口が一気に 500万人から600万人に20%も増えたのです。日本に例えると2500万人の移民を受け入れた計算になります。東京都の人口の約2倍です。移民の多くは高い教育を受けており、労働市場において優秀な就労者が集積されていきました。こうした移民の影響は人口の自然な成長の助けになっていったのです。

 最後が政府による政策です。子ども1人から6人まで子ども手当が支給されます。また世帯の13%であるシングルマザーにも手厚いです。こうした政策の結果、40歳以上の女性が子どもを産む割合も世界で最も多い国の一つです。

 3歳からの公立幼稚園費用は無料。七つある大学は国立で、文理系問わず日本円に換算して年間約35万円の授業料。文学部でも医学部でも同額です。日本では幼いころから教育費がかかります。国立大の授業料は約54万円かかります。

 さて、ここまで人口の増減やイスラエルの出生率の高さの理由についてみてきましたが、最終的には健康で幸せな社会を続けることが大事なのはいうまでもありません。この鍵は、「ダイバーシティー」です。ダイバーシティーへの理解は、移民、旅行、学生の留学などによって育まれます。多くの国の人たちと触れていきましょう。

○Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。


トップにもどる dot.オリジナル記事一覧

Nissim Otmazgin

Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

続きを読む

関連記事関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加
あわせて読みたい あわせて読みたい