■国公立大は同窓会組織が就職課の役目を

 国公立大でも最近は大学に就職部が置かれているのが普通となっているが、大学によっては、就職部の部屋の隣に同窓会事務局が置かれているなど、実質的には同窓会組織が就職に関する学生の相談に応じているケースも少なくない。逆に、とくに歴史の浅い私大の多くが、大学をあげて学生の就職支援に取り組んでいるのは、就職実績を前面に出さなければ、受験生にそっぽを向かれることをよく知っているからだ。

 私立で旧帝大や一橋大などに伍して健闘しているのが慶應大である。戦前から金融経済界に多くの人材を送り出し、三田会という同窓会組織のネットワークを国内外に広げている。三田会は地域や職種単位でも構成されており、経済学部が旧帝大と並ぶ位置にあり、同大学の他学部に対して圧倒的に上位にあるのは、三田会のなかでも実業界で優位であるためだろう。

■神戸大、横浜国大、慶應大…かつてあった強い個性

 神戸大の難易度が、経営、経済の順になっているのは、神戸大の母体が東京高等商業学
校(現・一橋大)に次いで2番目に古く設置された官立神戸高等商業学校であり、1929年には官立神戸商業大に昇格していたからで、新制大学移行時に、日本で最初の経営学部が設置されたことによる。また、横浜国立大が上位に位置しているのは、前身の横浜高等商業学校が、首都圏で2番目に設置された官立商業専門学校だったからである。

 現在の神戸大では、経営学部の河合塾の偏差値が65.0、経済学部と法学部が62.5と、辛うじて経営学部優位の痕跡が残っているといえる。しかし、慶應大では、経済学部と商学部とは、かつてほど変わらない偏差値となっていて、特徴や個性は失われている。

 高度経済成長以前、大学は私大も含めて、それぞれの歴史に裏付けられた個性を持った教育機関としての内実を持った存在だった。しかし、高度経済成長下の大学教育の大衆化によって、大学は教育機関としてよりは人材の選別機関としての性格を強め、大学の個性も消されていったのである。

小川洋(おがわ・よう)
東京都生まれ。早大一文卒業後、埼玉県立高校教諭。並行して国立教育政策研究所の研究協力者として、日本の高校教育とアメリカ・カナダの中等教育との比較研究を行う。2003年、私大に移り教職科目などを担当。16年退職。以後、教育関連の研究・執筆活動。主な著書に『地方大学再生』(朝日新書)など