「実は『奇跡を望むなら…』の前に音楽プロデューサーの川口大輔君の曲『ありがとう』をレコーディングして、そのときに川口君と意見が分かれたんです。当時の私は日本語詞を洋楽のように、強めのビブラートで歌っていました。それを川口君に否定された。彼は日本語をはっきり発音して言葉を届けなくてはいけない、と言って。私はそれまでの自分を全否定された気持ちになりました。でも、日をあらためて2つのテイクを聴き比べると、大輔君の言う通りでした。あのときに歌い方を変えたことで、『奇跡を望むなら…』以降のヒットに恵まれました。でね、私のジャズは、『奇跡を望むなら…』より前の歌い方なんです。喉のギアを以前の自分に切り替えています。よく聴いていただくと、Jポップを歌うときのJUJUとは別のシンガーのように聴こえるはず。そこも楽しんでいただきたいですね」

 ジャズアルバムは3枚目。1枚目よりもジャズと親しくなれている気がするという。

「ジャズは、私を大人にしてくれる音楽だと感じています。幸せなときにも、悲しいときにも、その気持ちにぴったりのスタンダードがあるでしょ。それが自分の実体験と重なって、深みを増していく。だから、プライベートでものすごくつらい出来事があると、悲しみながらも、これでまた1曲歌える曲が増えた、と思っている自分がいます。深谷かほるさんの『夜廻り』という漫画、ご存知ですか? 遠藤平蔵という猫が、夜回りをして、涙にくれる人を励まし、励まされ、その数だけ背中に傷が増えていくお話です。いつも私は平蔵と自分を重ね合わせて読んでいます。実は最近、平蔵そっくりの猫と暮らし始めました」(神舘和典)

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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