ニューヨークの暮らしで、JUJUは自分を手に入れた。

 当時マンハッタンのウエスト・ヴィレッジにジンク・バーというジャズクラブがあった。ヴィレッジ・ヴァンガードやブルーノートほどメジャーではないけれど、ミュージシャンの間ではよく知られ、腕利きのジャズマンが集まっていた店だ。JUJUもそこに通った。

ドラマーのジェフ“テイン”ワッツや、ベーシストのジェイムス・ジーナスや、先日亡くなったトランペット奏者のロイ・ハーグローヴがよく演奏していた店です。私はギタリストのマーク・ウィットフィールドのバンドでマスコット的なキャラで歌っていました。

『DELICIOUS』に収録した『Girl Talk』をはじめスタンダードが中心です。楽しい日々でした。今回のアルバムの『Englishman In New York』は、ニューヨークに住むイギリス人をスティングが歌っていますよね。私は日本人だけど、ニューヨークに住む異邦人という意味ではあの歌に近い感覚です」

 そんな暮らしを送りながらも、ジャズを歌うのは自分にはまだ早いとも感じていた。

「叔母はジャズもよく歌っていました。『Night And Day』や『You’d Be So Nice To Come Home To』です。彼女が歌う姿を見て、子どもながらに、ジャズはいくつもの喜びや悲しみを体験してこそ歌えるものと感じていました。実際、叔母をまねて歌ってみても、なんだかしっくりこなくて。その感覚はニューヨーク時代も変わりませんでした。あのころから大人になったらジャズを歌いたいと思い続けてきたんです」

 ニューヨークでさまざまな経験を積んだJUJUは、シングル曲「光の中へ」でデビュー。そして3枚目のシングル、代表曲の1つでもあるバラードナンバーの「奇跡を望むなら…」で注目された。

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