もちろん、抗菌薬が必要な時は、子どもであろうと大人であろうと使用する必要があります。必要以上に使用することは、耐性菌の面でも、私たちが共存している細菌への影響の面でもよくないということなのです。

 また、抗菌薬は細菌を殺してくれる一方で、副作用ももたらします。個人的なお話で恐縮ですが、私は抗菌薬を飲むと、必ずといっていいほど下痢を引き起こしてしまいます。私の場合、日常生活に支障をきたすほど下痢がひどく、恥ずかしながら、短時間のうちに何度もトイレに駆け込む、なんていうことも多々あります。

 下痢は、抗菌薬による副作用の一つとして知られています。私たちは、約100兆個もの細菌と共存しています。細菌同士はバランスを保ち、安定した生態系を構成しています。特に、消化管に生息している細菌を「腸内細菌叢(腸内フローラ)」と呼んでいます。外からきた病原体に対してバリアとして働いたり、正常な免疫システムの維持に大きな役割を担っていることが明らかになりつつあります。けれども、抗菌薬を内服すると、この腸内細菌叢のバランスが崩れてしまい、結果として下痢を引き起こしてしまうのです。

 抗菌薬を飲むと、私はカンジダ膣炎もたびたび引き起こしてしまいます。膣内の常在菌であるカンジダという真菌が増えることによっておこる疾患です。14年の小林製薬の調べでは、女性の5人に1人は経験したことがあると回答しています。女性にとっては一般的な疾患の一つと言えます。

 カンジダ膣炎の典型的な症状としては、非常に激しいかゆみが出現し、白く濁ったおりものが増えることが特徴です。膣や外陰部も、消化管内と同様に菌同士がバランスをとって共存していますが、抗菌薬の内服、ストレスや疲れなどによる免疫の低下やホルモンバランスの変化によって菌同士のバランスが崩れてしまうと、カンジダが異常に増殖してしまうのです。

 このように抗菌薬は細菌を殺してくれる一方で、副作用として様々な症状を引き起こします。2015年に全日本民医連に報告された抗生物質(抗菌薬のうち細菌や真菌といった生き物から作られるもの)による副作用193件のうち、最も多い副作用は発疹(112件)であり、ついで肝障害(24件)、下痢(10件)、口内炎(7件)と続いていました。他にも、腎障害や聴力障害、嘔吐や嘔気と言った消化器症状など、報告されている副作用は多岐に渡ります。

 こうした自身の経験もあり、ウイルスによる風邪に対しては、抗菌薬の内服は必要なく、休養して体力を回復させること、そして水分補給や栄養補給をしっかり行うことが大切であることを丁寧に説明するように心がけています。

 抗菌薬はもちろんですが、薬には「リスク」と「ベネフィット」があります。過度に薬を恐れる必要もありませんが、内服を自己判断で中止することなく、医師の指示に従って内服することが大切です。参考にしてみてくださいね。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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