そこで平石は、自らの方針を全面に掲げた強化策を打ち出した。岡山・倉敷で行われた秋季キャンプ。その2日目となる11月10日の練習メニューに、その“信念”がこめられていた。

 倉敷は野手、投手陣は仙台で、それぞれの課題に集中させるためにまず「分離キャンプ」の形を取った。さらに、キャンプでは、野手の練習メニューは通常、数組に野手をグループ分けして、走塁、守備、ティー打撃、フリーバッティングなどを、ローテーションを組んで取り組ませる。こうするとグラウンドも効率的に使用でき、無駄なく練習が進んでいく。2月のキャンプなら、そのローテーションの前後にチームプレーやシートノックなどが組み込まれ、全体練習が終わると個別練習という流れになる。

 秋は、そのローテーションの前後に、個別練習が入るケースが多い。シーズンを通して見えてきた弱点や課題を克服するために「特打」「特守」といった個人向けのメニューが増えてくる傾向がある。ところが平石はこの日、午前と午後に2度の「ローテーション練習」を敢行した。

 しかも午前は「打撃」「走塁」「守り」「体幹」「Tee」で、守備は15分だけ。午後はメーン球場とサブ球場を途中で入れ替え、メーンでフリー打撃、サブではロングティー打撃。つまり、午前2時間、午後2時間、とにかく、バットを振りまくるのだ。1人あたり、1000スイングほどになる。

「へばるヤツもいると思います。そういう選手にも『とにかく最後まで出し切れ』と」

 最下位に終わった2018年。チーム打率・241、得点520はいずれも12球団ワーストの数字だ。つまり、弱点は明確だ。だから、まずは数をこなす。ただ、その理由付けだと、単なるスパルタ練習、旧態依然の猛練習のように映ってしまう。その“理屈ではない部分”は、もちろん重要なのだが、その中にも、平石流のスパイスを効かせてある。

 1軍打撃コーチは、チーフの金森栄治と小谷野栄一。2軍は栗原健太と後藤武敏。打撃担当のコーチ4人が、練習を付きっきりで見ている。金森はヤクルト西武阪神ソフトバンクロッテと、打撃コーチとして各球団を渡り歩き、独立リーグや高校での監督経験もある。小谷野は日本ハムオリックスで主軸を務め、打点王のタイトルを獲得した実績を持ち、後藤は法大時代に東京六大学で3冠王、プロでも勝負強い打撃には定評があった。栗原も広島で長きにわたって4番を打った経験があるなど、中距離タイプの金森、小谷野、長距離タイプの後藤と栗原、さらに金森は左打者、他の3人は右打者と、あらゆる“タイプ”をそろえている。

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前近代的な押しつけ型の指導ではない