前述の原や緒方、60歳の西武・辻発彦、55歳のソフトバンク・工藤公康らのように、年齢や実績が醸し出す“威厳”のようなものは、確かに38歳の平石には感じられない。それでも、左肩の故障の影響で高3時も「背番号13」でありながら、名門・PL学園でも初だったという「補欠番号のキャプテン」を務め、関西の古豪・同志社大から社会人の強豪・トヨタ自動車を経てのプロ入り。そのキャリアが物語るように、野球観や指導力は、若いからと言って、決して他の監督に劣るわけではない。

「ちょっと、パを面白くしますよ」

 そうひそかに意気込む平石とPL学園高時代の同級生で、延長17回の死闘では松坂3安打を放った5番打者が大西宏明だ。こちらも近大を経て近鉄、オリックス、横浜、ソフトバンクでプレー。2011年に現役を引退した後は、大阪・心斎橋で焼肉店「笑ぎゅう」を経営。食にはうるさい野球選手たちも足しげく通う人気店で、松坂も今季、遠征時に立ち寄った。実業家としての第二の人生も軌道に乗っている。

 その大西が、来季から発足する独立リーグ球団の「初代監督」に就任する。関西を中心に展開するベースボール・ファースト・リーグ(BFL)に、2019年シーズンから参入する「堺シュライクス」は、大西が生まれ育った大阪・堺を本拠地とする市民球団だ。

 その新球団による「トライアウト」が行われたのは、平石が倉敷での秋季キャンプをスタートさせた11月9日のことだった。

 大阪・南港中央野球場に集まったのは、投手19人、野手20人の39人。50メートル走と遠投の後、投手はブルペンで1人10分のピッチング、野手はフリー打撃を10スイング、最後にシートノックと、およそ3時間半。最年少は16歳の高校生で、最高齢は1981年生まれの37歳。独立リーグや社会人、クラブチーム、海外球団でのプレー経験者や大学生など、そのキャリアはさまざまだが、リーグ規定により、選手は無給。BFLは、レベル的にも環境的にも“最後の望み”をかけてのリーグと位置づけられている。

 だから、大西には“覚悟”があった。

「想像通りでした。想像を超える選手が何人か、欲しかったんですが、ただ、想像以下でもなかった。今のBFLのレベルで、独立リーグといえば、他の四国(アイランドリーグプラス)さんとか(ルートイン)BCリーグさんに失礼かな。どっちも、レベルが高くなってますしね」

 “目線”を下げる。独立リーグでの指導者が、最初にぶつかるギャップでもある。NPBはもちろん、社会人のトップレベルと比べても、個々の選手の“プレーの質”は大きく落ちる。

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「彼らは、本当にNPBを夢見ている…」