「彼らは、本当にNPBを夢見ている。『そんなん、行かれへん』って、僕らは絶対に言ってはいけない。だって彼らは真剣。だからここに来るんです。行かせるためにベストを尽くす。それが僕の役目です」

 トライアウトに来た39人に、球団側は全員に面談も行った。NPBへの思い、今後の展望を聞き、反対に選手側からの質問、球団への要望にも耳を傾けた。こうした双方向のやりとりは、レベルや中身は違えども、平石の楽天と同じスタイルだ。社会分析や世評に触れるのは今回の本題ではないが、それが今の野球界に、いや、ビジネス界や社会全体にも求められている方向性なのだろう。

「今日アカンかったら、引退する子もいるでしょ? でも、ウチをこうやって選んでくれたのは、そういう意味でもうれしい。だからといって、全員採るわけじゃない」

 受験者全員を集めてのミーティングで、大西はそう語りかけた。優しさの中にも、プロとしての厳しさが垣間見える瞬間だった。

 ソフトバンクでの3年間で1軍登板1試合。右肩の相次ぐ故障という苦闘を乗り越え、新天地・中日で今季6勝を挙げた松坂大輔は、セ・リーグの「カムバック賞」を受賞。背番号「99」から、慣れ親しんだ「18」に変わることも発表された。
 
「松坂世代」の2019年が、もう動き始めている。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。