ワールドカップ2019組織委員会は、会期中に40万人が大会のために海外から来日すると予想している。これは昨年9月に日本を訪れた外国人の数(228万人)の約18%にあたる。つまり、来年9月には従来より2割近く多い外国人旅行客がワールドカップのために日本にやってくるわけだ。訪日外国人の数はFIFAワールドカップが開かれた2002年の年間523万9000人から大幅に伸びており、昨年は2870万人。インバウンドビジネスは各地域の重要な産業となり、外国人旅行客を受け入れてもてなす態勢は、2002FIFAワールドカップの時よりもはるかに整備されている。試合開催都市のほとんどはインバウンド観光の「ゴールデンルート」や観光庁認定の広域観光周遊ルートにある。試合と試合の間には、大いに日本滞在を楽しんでもらえるだろう。組織委員会は、こうした海外からの訪問客の消費も含めた大会開催における経済波及効果を4372億円と見積もっている。

 では、そこまで大規模な大会にふさわしいだけの盛り上がりを日本社会がみせているかというと、残念ながら、答えは明確に「ノー」だ。

 2002FIFAワールドカップの時は、招致レースの段階から韓国との一騎打ちが急転直下史上初の2カ国共催となるドラマがあり、社会的事象として大きな注目を集めた。その結果、本番では国内で行われた32試合すべての入場券が完売した。一方、ワールドカップ2019の日本開催決定は国内のラグビー人気が長期低迷中だった2009年。スタートの時点から、その差は大きい。加えて、ラグビーという競技自体も、ワールドカップ2015の南アフリカ戦、2016年リオデジャネイロオリンピックのニュージーランド戦(7人制)と2年連続の大金星が一時的には話題を集めたが、競技の認知度や人気度の向上に責任を負うべき日本ラグビー協会はこれらの絶好機をいかせず、盛り上がりはすぐにしぼんでしまった。

 組織委員会もこうした状況は十分過ぎるほど分かっており、試合会場の沿線駅へのポスター掲出など、日本流の地道な告知活動に早い段階から取り組もうとした。しかし、FIFA(国際サッカー連盟)にあたるラグビーの国際統括団体「ワールドラグビー」はSNSなどデジタルメディアに傾注しており、さらにラグビーの認知度、人気度がもともと高い伝統国での開催だった過去の大会同様に、大会プロモーションの契機を入場券の発売開始のタイミングに設定。おかげで、ラグビーコミュニティーの中では一定の話題醸成効果はあっても、社会全体の認知度は低いままだ。

 さらに、ワールドカップ2019には翌年に開かれる東京オリンピック・パラリンピックの大きな陰に隠れてしまっている。2年先にもかかわらず、メディアの報道はオリンピックやパラリンピックばかり。さらに、多くの協賛企業が展開するテレビコマーシャルは、日常的にオリンピックやパラリンピックを想起させる。対照的に、ラグビーワールドカップのワールドワイドパートナーは、国内でテレビコマーシャルのようなマスマーケット向けの広告出稿を積極的には行っていない。ローカルスポンサーでもオリ・パラ同様のコマーシャルを打っているのは大正製薬ぐらいと、他力本願の知名度アップも望めそうにない。

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頼りは日本代表の活躍