そしてこの日最も強いインパクトを残したのは根尾昂(大阪桐蔭3年・右翼手→投手)だ。第1打席で大阪桐蔭の先輩でもある大学ジャパン先発の田中の138キロストレートをとらえてレフト前ヒットを放つと、第2打席では同じくサウスポーの小島和哉(早稲田大4年)の140キロのストレートを完璧にとらえてセンターオーバーのスリーベースを放ち、三塁到達タイムは破格の11.07秒をマークした。このタイムはプロでもなかなか見られないレベルである。

 また、この時の打球はセンターを守るドラフト候補の辰己涼介(立命館大4年)が目測を誤るほどの伸びだった。小園と藤原は昨年も木製バットで結果を残しているが、根尾も全くその対応には不安を感じさせない内容だった。またこの2安打はいずれもファーストストライクをとらえたものであり、その積極性とミート力の向上も強く印象付けた。8回裏には5番手としてマウンドにも上がり、三者凡退に抑えたがこの時のピッチングにも根尾の良さが現れていた。この日のような壮行試合では投球回数が短いことから、目いっぱいスピードを出そうとしてストレートで押す投手が多いが、根尾は先頭打者の児玉亮涼(九州産業大2年)を相手に6球変化球を続けて打ち取ったのだ。こういう舞台でも相手を抑えることを第一に考えられるメンタリティーは貴重である。さらに変化球だけでなくストレートも、この日登板した高校ジャパンの投手では最速となる148キロをマークしている。野手の方が大きな可能性を感じることは間違いないが、投手としても改めて一級品だということを見せつけた。ちなみに大学ジャパンは最終回にドラフト1位候補である甲斐野央(東洋大4年)がマウンドに上がり最速158キロをマークしたが、11球のうちストレートは4球だった。その前の回に松本がストレートを続けて小園にホームランを打たれたということもあったが、スピードにこだわらずに抑えることに徹したのは根尾のピッチングの影響もあったのではないか。

 野手は目玉の三人が力を発揮した一方で、投手陣は課題が多く見られる内容だった。先発した市川悠太(明徳義塾3年)は7月の地方大会からのブランクもあったせいかスピード、コントロールとももう一つで初回に3失点。2回から内角を増やして抑えたが、外一辺倒では厳しいだろう。また甲子園で好投した渡邉勇太朗(浦和学院3年)、柿木蓮(大阪桐蔭3年)もストレートが甘く入ったところを確実にとらえられた。3人とも有力なドラフト候補だが、上のレベルで活躍するにはさらに制球力に磨きをかける必要があるだろう。

 それでも全体的には見どころが多く、詰めかけた大観衆が沸くシーンも多く見られる試合だった。特に小園、藤原、根尾の3人は大学ジャパンの選手と比べても全く遜色ないプレーを見せており、改めて潜在能力と完成度の高さを感じさせた。3人揃って侍ジャパンのトップチームの主力として活躍する、近い将来そんなシーンが見られる可能性も十分に考えられるだろう。

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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