この日のピッチングで改めて秋のドラフトでも1位候補という評価は不動のものとなった印象だが、その一方で大きな不安も感じたのもまた事実である。それはこの夏の吉田の起用法による部分が大きい。金足農は秋田大会で5試合を戦ってきたが(準々決勝の秋田商戦は7回コールド)、その43イニング全てを吉田一人が投げ抜いてきているのだ。そしてこの日も8回裏に2点を追加して4点差としたものの、最終回も当然のように吉田がマウンドに上がり157球を投げ切っている。下半身主導で肩や肘への負担が大きくないフォームに見えるが、これだけの暑さの中で100球を大きく超える球数を連日投じることは大きなリスクであることは間違いない。また、その影響はこの日のピッチングにも現れていた。最初から一人で投げ抜くこと、また勝った後も試合が続くことを考えてか、自慢のストレートも明らかに加減しているボールが見られた。上記の各イニングのスピードはあくまでも最速であり、カウントを取る時のストレートは136キロ~141キロ程度がアベレージだった。それだけ投球術にたけていると言えなくもないが、他にも頼れる投手が控えていて100球前後を目安に投げることができれば、吉田のピッチングはさらに凄みを増していた可能性が高いだろう。吉田本人もこの日の出来は万全ではなく、自己採点は30点とのコメントを残しているが、地方大会の疲れと一人で投げ抜かなければならない状況が影響して低い点数にとどまったとも考えられる。

 秋田大会で優勝を決めた後には同じくドラフト1位候補である大阪桐蔭の根尾昂を抑えたいとコメントしていたが、組み合わせの結果で対戦するまではあと最低でも2試合を勝ち抜く必要がある。その時点では疲労の蓄積がさらに進み、本来のピッチングは到底望むことはできないだろう。実際に鹿児島実との試合でも、最後のバッターに対して決めにいったストレートのスピードは143キロにとどまり、空振りを奪うことはできず、明らかに疲労の色が見えていた。これまでも数多くの好投手が登場した甲子園だが、もはや一人の投手で勝ち進む時代ではないことは誰の目にも明らかである。ましてや地方大会から甲子園まで一人で投げ抜くというのは、昭和の時代の野球と言い切っても過言ではないだろう。

 素晴らしい将来性を秘めており、また最強と言われる大阪桐蔭の打線を抑え込む可能性がある投手だからこそ、2回戦以降はどんな展開になったとしても、これまでのように吉田が一人で投げ抜く試合にならないことを切に願いたい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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