金足農・吉田輝星 (c)朝日新聞社
金足農・吉田輝星 (c)朝日新聞社

 第100回全国高校野球選手権記念大会にプロ大注目の好投手が現れた。大会前からナンバーワン投手の呼び声が高かった金足農(秋田)のエース吉田輝星だ。U-18の侍ジャパン一次候補にも選出されており、秋田大会初戦の秋田北鷹戦では自己最速を更新する150キロもマークしている。迎えた大会第4日の8月8日には鹿児島実(鹿児島)との1回戦に臨んだが、その評判通り見事なピッチングを披露して居並ぶスカウト陣を唸らせた。改めてこの日の吉田のピッチングの内容と各イニングでマークしたストレートの最速はまとめると下記の通りとなる。

●9回 157球 被安打9 失点1(自責点1) 14奪三振 2四球

●各イニングの最速
1回:147キロ
2回:146キロ
3回:146キロ
4回:148キロ
5回:148キロ
6回:148キロ
7回:146キロ
8回:145キロ
9回:145キロ

 これだけ初回から最終回まで145キロを超えるスピードをコンスタントに投げられる高校生投手はそうはいないだろう。しかし吉田の武器は決してスピードだけではない。130キロ前後のスライダーとフォークでカウントを稼ぎ、時折投げる100キロ台のカーブで緩急をつけることも忘れない。ボールだけでなく、フォームもクイック気味に投げて変化をつけており、走者を背負ってもボールを持つ時間に変化をつけて容易にスタートを切らせない。バントでの小フライを素早くさばいて併殺を完成させるなどフィールディングも高校生離れしたものがある。簡単に言うと投手としての完成度が極めて高いのだ。

 相手の鹿児島実も決して打力が弱いチームではなかったが、9安打というヒット数以上に抑え込まれている印象だった。そして吉田の凄みを増しているのは、やはりそのストレートということになる。この日は14三振を奪ったが12三振の決め球がストレートであり、そのうち10個が空振り三振だった。140キロ台後半のスピードを誇る投手は高校生でも珍しくなくなっているが、ここまでストレートで空振りを奪える投手はめったにいるものではない。それだけ左肩の開きが遅くボールの出所が見づらいということと、ボールへの指のかかりが良く、手元で落ちない球筋だということがその要因と言えるだろう。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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吉田が抱える大きな不安