一方、星稜(石川)も選抜ベスト8から一回りスケールアップしてきた。県内のライバルと見られていた日本航空石川が早々に敗退したこともあったが、石川大会5試合で53得点で失点0というのは見事という他ない。特に決勝戦で4本塁打を放った竹谷理央、同じく3本塁打を放った南保良太郎のインパクトは強烈だが、その前を打つショートの内山壮真は小柄ながら1年生とは思えない堂々としたプレーを見せている。投手陣も選抜で好投した2年生の奥川恭伸が安定感を増しており、春の北信越大会で見事なデビューを飾った1年生の大型右腕寺西成騎が加わったことで厚みを増している。豊富な投手陣をリードする2年生捕手の山瀬慎之助の強肩も全国トップクラスだ。細かいプレーや守備面には不安があるものの、能力の高い選手が多いだけに甲子園で、さらに才能が開花すれば一気に頂点まで上り詰める可能性もあるだろう。

 そして、忘れてはならないのが昨年秋の明治神宮大会で大阪桐蔭を破った創成館(長崎)だ。創成館の戦い方の特徴は複数の投手起用である。選抜の3試合全てで継投を見せ、長崎大会でも5人の投手を起用している。大阪桐蔭は北大阪大会の準々決勝で金光大阪の小刻みな継投の前に2点に抑えられるなど苦戦しており、創成館の投手陣がそのような戦い方に慣れているというのは大きな強みだ。打線も圧倒的な力があるわけではないが得点力は低くなく、選抜では故障で控えに回っていた4番の杉原健介が復帰したことも頼もしい。明治神宮大会の再現を狙うだけの戦力は整っている。

 選抜不出場組で面白い存在になりそうなのが創志学園(岡山)だ。エースの西純矢は2年生ながらスピード、変化球、コントロールともに高レベルで9回まで投げ切るスタミナも申し分ない。準決勝では倉敷商の最速151キロ右腕、引地秀一郎との息詰まる投手戦も制しており、メンタル面も安定している。打線も5試合連続ホームランを放った主砲の金山昌平、下級生の頃から中軸の中山瞬を中心に得点力があり、強豪との戦いが多かった岡山大会を危なげなく勝ち上がった。西が万全の状態で大阪桐蔭と対戦することができれば、面白い試合になる可能性は高い。

 それ以外では個々の能力の高い浦和学院(南埼玉)、横浜(南神奈川)、日大三(西東京)、夏に強さを見せる花咲徳栄(北埼玉)と作新学院(栃木)などが有力チームとなる。また、大会ナンバーワン投手の呼び声高い吉田輝星を擁する金足農(秋田)も大阪桐蔭にとっては初戦で対戦したくないチームではないだろうか。

 圧倒的な戦力を誇る大阪桐蔭だが、北大阪大会では準々決勝、準決勝と続けて苦戦を強いられている。先述したが準々決勝の金光大阪は小刻みな継投、準決勝の履正社は意外な投手の先発起用がうまくはまった印象を受ける。大阪桐蔭は相手投手の映像、データを徹底的に活用して対策を練ることでも知られているだけに、データの少ない初戦はある意味チャンスと言えるだろう。また優勝候補の大本命がそのまま優勝したケースが意外に多くないというのも事実である。ここで挙げた高校以外にも王者を苦しめるようなチームが現れることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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