東海大相模時代の巨人・菅野 (c)朝日新聞社
東海大相模時代の巨人・菅野 (c)朝日新聞社

 今年も各地で地方予選が行われ、夢の甲子園出場へ向け球児たちが熱い戦いを続けているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会の予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「勝敗を分けた珍プレー編」だ。

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 振り逃げ3ランの珍プレーが勝敗を大きく分けたのが、2007年神奈川県大会準決勝、東海大相模vs横浜。

 0対0で迎えた4回、東海大相模は4番・大田泰示(現日本ハム)の左越え二塁打などで1死二、三塁のチャンスをつくり、大城昌士の左前安打と原大地の右越え二塁打で3点を先取。なおも2死一、三塁と攻めたてたが、9番・菅野智之(現巨人)はカウント2-2から落司雄紀のワンバウンドになるスライダーにバットを中途半端に出した。球審が一塁塁審に確認を求めると、スイングを取ったことから、右手を高々と上げて「スイング」を宣告した。

 これを見た横浜の1年生捕手・小田太平は、てっきり球審が「アウト」をジャッジしたと思い込み、ボールをサードの1年生・筒香嘉智(現DeNA)に転送すると、ベンチに引き揚げた。他のナインも笑顔で続々とベンチへ。捕手がワンバウンドで捕球した場合は、打者の菅野にタッチするか、一塁に送球しなければいけなかったのだが、ピンチを切り抜けてホッとした気持ちがアダとなったしか言いようがない。

 一方、「捕手が打者にタッチしていないのがハッキリ見えた」という東海大相模・門馬敬冶監督は、三振だと思った菅野がベンチに戻ろうとすると、大声で「走れ!」と指示した。菅野ら走者3人は慌ててダイヤモンドを1周し、振り逃げ3ランが成立。6対0となった。この間、すでにベンチに戻っていた横浜ナインは、どうすることもできなかった。

 ノータッチの判定に対し、横浜・渡辺元智監督は「球審のジャッジがアウトと思った」と主張したが、「捕手が打者にタッチしたかは(ベンチから)見えなかった」とあって、引き下がるしかなかった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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