1989年10月24日の日本シリーズ第3戦(後楽園)、近鉄は先発・加藤哲郎が6回1/3を3安打無失点に抑え、3対0で巨人に快勝。第1戦から3連勝と初の日本一に王手をかけた。

 ところが、「巨人は(パリーグ最下位の)ロッテより弱い」という加藤のコメントがスポーツ紙に報じられたことが巨人ナインを奮い立たせ、近鉄は第4戦からまさかの4連敗。ヒーローから一転ヒール役になった加藤は、3勝3敗で迎えた同29日の第7戦(藤井寺)に先発し、2回に駒田徳広に先制ソロを浴びるなど、4回途中3失点で負け投手になり、皮肉にも巨人に逆転日本一を許す羽目になった。

 “シリーズの流れを変えた発言”として、今でも語り継がれているエピソードである。実は、当時の加藤は「ロッテより弱い」とは口にしていない。

 第3戦後のインタビューを再現すると、「とりあえずフォアボールだけ出さなかったらね。まあ、打たれそうな気しなかったんで。ええ、たいしたことなかったですね。シーズンのほうがよっぽどしんどかったですからね。相手も強いし」である。

 ただし、コメントの一部を拾い上げて強引につなぎ合わせれば、「巨人はロッテより弱い」にアレンジできなくもない。加藤は巨人打線を「たいしたことなかった」と言っているのに、リーグ一の投手陣も含むチーム全体が弱いことにされているのは、さすがにどうかと思うが……。

 たとえ言った覚えがなくても、一度報道されてしまうと、世間では本人が言ったことにされてしまうから怖い。以来、加藤は現役引退後も四半世紀にわたって日本シリーズでの“発言”を「ずっと言われつづけている」という。

 次も報道の怖さを痛感させられる話である。

 1996年3月30日の開幕戦、ダイエーvsロッテ(千葉マリン)で、ロッテの開幕投手を務めたのは、エース二枚看板の伊良部秀輝でも小宮山悟でもなく、前年8勝9敗の園川一美だった。

 ダイエー・王貞治監督は色をなした。

「伊良部じゃないのか!ウチもなめられたものだ。開幕投手には“格”ってものがあるだろう」

 王監督が「なめられた」と言ったのは、ダイエーが前年7月からロッテに10連敗中という事情もあるのだが、この格落ち発言が大きく報道された結果、まさに「口は災いの元」を地でいったような結果になった。

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王監督の発言が…