●利権至上主義の安倍政権には本気の対策はできない

 安倍総理にやる気がない理由は極めて単純だ。

 利権を守ろうとする既得権集団と闘うのが怖いからだ。

 既得権集団としては、まず葉たばこ農家が挙げられる。年々数が減って今やその数は6000を切ってしまったが、「全国たばこ耕作組合中央会」はたばこ需要が減少するようないかなる動きにも一体となって強力な政治的反対運動を展開する。

 次にJTとそれと一体となったたばこ販売業界がある。彼らが反対するのはいわば当然のことだ。

 そして、今回最大の焦点となっているのが飲食店業界だ。全国津々浦々にあって自民党議員を支える重要な票田である。中小零細規模の店が多く、受動喫煙防止のために、分煙を義務付けられるだけでもそのやり方によっては深刻な負担がかかり、とても対応できないというところが多い。今回も非常に強力な反対運動(正確に言うと、分煙規制の骨抜き要求)を展開している。

 そして、利権集団として忘れてはならないのが、財務省だ。政策面からは、たばこの売り上げが減ると、たばこ税の収入が減るから困る。財政再建の観点から、あまり厳しい規制には反対だ。

 さらに、そうしたまじめな政策面よりも、たばこ関連業界のドンであるJTが財務省にとって重要な天下り先であるということの方が実は重要だ。JT歴代トップは原則財務省(大蔵省)事務次官OBだ。給料も高く財務省としては重要な天下り先の一つである。したがって、JTが本当に困ることは、財務省が許さない。JTを敵に回すと、同時に財務省を敵に回す可能性が高いのだ。

 さらに、こうした既得権集団と結びついた族議員も厳しい規制の導入には反対している。

 財務省や政治家を除いても、これらの反対勢力が束になると侮れない力を発揮する。葉たばこ農家、たばこ販売業界、飲食店業界などの組合が共同で実施した今回の受動喫煙対策の骨抜きを要求する運動でも、全国で120万筆の署名を集め存在感を示した。

 「改革」を標榜する安倍政権だが、実際にはその成果はほとんどない。今回の受動喫煙防止法案の内容が骨抜きになれば、またしてもその利権至上主義の性格を露呈したということになるのだろう。

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法案提出先送りの言い訳に盟友切りで対応する安倍総理の姑息さ