甲子園を目指す。それが、高校野球の“王道”であることは間違いない。ただ、冷静に考えてみると、日本の高校野球には「甲子園を目指す」という形しかないのも現実だ。

 甲子園大会や各都道府県の地方大会での過密日程で、連投を強いられるエースの疲労が蓄積され、故障を誘発し、将来の野球人生にも影響するといった問題はいまだ解消されていない。球児たちの体を守るために、複数投手制や投手の球数制限、ベンチ入り選手枠の拡大が必要といった議論は識者やファンの間でもやむことはない。2018年のセンバツ大会からは延長13回からのタイブレークが導入されるが、あくまで対症療法的な負担軽減策に過ぎず、根本的な問題解決にはほど遠い。

 そうした中で、自らの将来を見据え、体への負担を避けたい、連投はしたくない、炎天下での連戦もしたくないという強い意志を持った高校生が出てきてもおかしくない。それでも、現状の高校野球界では「甲子園を目指す」という今の形以外に、選択肢はないのだ。

 「甲子園を目指す」という球児と、「甲子園は目指さない」という球児が共生”できる、新時代の高校野球。多様化する社会の中で、そのスタイルの方がむしろ自然な姿ではないだろうか。高下のやろうとしていることは、現状を否定するためではなく新たな選択肢を提示し、また違った魅力を生み出すための、ひとつのアイデアなのだ。「甲子園を目指さない野球部」の活動が野球界に吹かせる新たな風の流れに、大いに注目していきたい。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。