既存の組織との対立も、決して消えたわけではない。独立リーグの球団と社会人チームとの交流戦は、ルール上は可能だ。しかし、飛び級の高校生が独立リーグのチームに入った場合、安全面や補償制度の問題から「絶対に認めない」というのが、社会人を統括する日本野球連盟(JABA)側の見解だ。

 さらに高下は、今構想の狙いのひとつに、現状の高校野球からドロップアウトしてしまった選手を救う「受け皿」としての役割ができることも挙げている。しかし、その反対のパターンも出てくるだろう。選手が「やっぱり甲子園を目指したい」と連盟に加盟している高校へ転校するケースだ。この場合、当該選手が独立リーグの試合に出場した、あるいは選手らと一緒にプレーした経験があれば、日本学生野球憲章に基づき“元プロ”の扱いを受けることになる。

 長年、議論の対象になっているこのルールの是非については、この場では別問題としよう。プロ・アマの関係に関するルールが存在する以上、そうした選手のアマ復帰は果たしてどうなるのか。ただ、全国でわずか2校という連盟外のチームの、さらにまた特殊なケースの対策は、高野連側にしてみれば、現時点では急を要する問題ではないだろう。高下は無用な混乱を避ける意味も含め、育成チームでいったんプレーした後で高野連加盟下の野球部へ転校することは当面は難しいという見解を入学志望者には伝えているという。

 高下と高野連はここ数年来、定期的に連絡を取り合って意見を交換したりするなど、良好な関係を維持しているという。高野連・竹中雅彦事務局長も「多様化している社会ですから、何でもアカンというのは通らない。軌道に乗っていけば、こういう学校はこれから出てくると思う。増えてくれば、もちろん議論しないといけなくなる」と指摘している。

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 芦屋学園高のプランが頓挫した中で兵庫は今季、高校生の練習生を3人、試験的に受け入れた。トップチームの練習生という形で、選手は三田市内にキャンパスを持つ通信制の高校に通いながら、トップチームで練習した。その中で、早くも思わぬ逸材が出現している。

 九州の名門校を中退して兵庫球団へやって来た高校1年生の左投手は、すでに巨人阪神楽天との2軍交流戦に登板。プロ相手に“ガチ勝負”で好投を見せ、スカウトらを仰天させた。阪神、オリックス、メジャーのヤンキースで投手として活躍し、2017年に兵庫でプレーした井川慶も、高下に対して「あと2年、しっかりやったら、これはプロに行けますよ」と太鼓判を押したほどだ。

 こうした逸材が自らの意思で「甲子園を目指さない」ことを決意し、高校3年間、さらに大学4年間といった長期スパンで技術を磨き、プロ入りの夢を実現すれば、高校生側からのニーズの高まりも受け、今はまだ2校だけの「甲子園を目指さない野球部」を持ちたいという学校も出てくるに違いない。さらに、そうした高校が増えていけば、地域や全国単位でのリーグ戦も可能になってくる。

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「甲子園を目指す」形しかない日本の現実