向陽台高の選手たちは、兵庫傘下の「育成チーム」に所属することになる。同球団はこれで、1軍(トップチーム)、2軍(芦屋大生)、育成(向陽台生)の3層式となるが、練習は合同でも可能。さらに実力に応じて、育成から飛び級で1軍の試合に加わることもできる。育成チームの野球に関する活動は三田がベースになるが、週2、3日はスクーリングの形で茨木に通い、勉強の方にも傾注する。神村学園高と提携する和歌山球団は大学が傘下に入っていないため、まずは1軍と育成の2層式になる。選手は和歌山市内に設置される教育センターで授業を受け、年に1度、2泊3日で鹿児島へスクーリングに行く予定だ。

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 「甲子園を目指さない野球部」は日本高等学校野球連盟(高野連)の傘下外。だからこそ、現状のルールではできないことがやれる。それが高校生に提示できる“新たな選択肢”になる。ただ、ここまでメリットばかりを強調したような形になってしまったが、問題点はまだまだ山積みだ。

 そのひとつは「高校を卒業した後の『出口』のこと」だと、高下は指摘する。少子化などの影響で、大学側も優秀な特徴ある高校生をAO入試、一芸入試、指定校推薦などの形で確実に確保したい。そのための推薦書などには、必ず「部活動」の成果が必要になってくる。高校野球の場合なら、推薦枠の条件として都道府県や各地区大会、甲子園大会での成績に応じて与えられるケースがほとんどだ。

 しかし「甲子園を目指さない野球部」は、大会への参加資格すらない。また、「甲子園を目指さない野球部」の高校生が独立リーグという「プロ」でプレーした場合でも、ベースボール・ファースト・リーグ(BFL)での成績が他の高校生と比べてどれくらいなのかを『見える化』、つまり、外部に評価される形として表せないと、高校生の部活動の実績としても残せない。現状では、進学や就職の際に必要な内申書の個人データにもならないのだ。

「甲子園よりインパクトは小さい。でも、それを作ってブランド化してあげて『これだけやりました』というのを認めてあげるようにしないと。それには、もう少し時間がかかりますよね」と高下は言う。

 これと並行して、大学や専門学校、あるいは就職先となる企業との提携も増やしていく方針だ。「入ってくるときに就職まで面倒を見る、しっかりサポートするという、その“セーフティーネット”も必要」と高下。BFLは選手の引退後のセカンドキャリアのため、複数の企業と協力関係を結んでおり、和歌山球団では今年引退する8選手のうち、6人がリーグの支援を受け、一般企業に就職を決めたという。

 その一環として、BFLは今年、芦屋大の卒業見込み者、現役引退を決意した選手らを対象とした就職斡旋のセミナーも初開催した。BFLの取り組みや実績、さらに選手のプロフィールと顔写真、自己推薦文を添えた「ワークドラフト2017」と題した冊子を作成し、企業側に事前配布。セミナーで個別の面接を行う場を設け「こうした提携を広げていきたい」と高下は語る。

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いまだ消えない既存組織との対立