守備でも、柳田不在の中堅に上林誠知を据え、上林に代わって1、2戦目の右翼を務めたのは内野手登録の川島慶三だった。今季、右翼での先発は1度だけという不慣れなポジション。致命的なエラーを犯したのは、2戦目の1回1死一塁のこと。楽天・銀次の右前打は、川島の前でバウンド。目測を誤ったことで頭上を抜かれ、これが楽天の先制点に。しかも終わってみれば1点差での惜敗と、急造右翼手のミスが皮肉にも連敗への引き金を引いた形だった。

 迎えた第3戦、工藤監督が大胆に動いた。

「今日から、バカになって、盛り上げていこうぜ」

 試合前、就任3年目で初めて、監督自ら円陣の輪に入り、選手たちを鼓舞した。2番に起用した城所龍磨は今季の1軍出場はわずか2試合だが、昨年の交流戦ではMVPを獲得した実績十分の32歳。1点を追う1回、無死一塁で送りバントを決め、逆転劇へのお膳立てをすると、5回の守備ではゼラス・ウィーラーの左中間への当たりを、フェンス目前でスライディングキャッチ。再三の好守でピンチの芽を摘んだ。

 5‐5の同点で迎えた8回1死一塁では、6番・松田宣浩が空振り三振。連敗中の短期決戦だけに、なんとしても得点圏に走者を送り、1点をもぎ取ることを優先すべきで、2死覚悟の送りバントでもおかしくない場面だった。

 しかし、警戒する楽天バッテリーの前に、福田秀平は二盗もできず、カウント2-2からのランエンドヒットも決まらず、走者は結局一塁にくぎ付け。作戦ミスが尾を引きそうな状況で決勝の2ランを放ったのは、ここまでの2試合で精彩を欠き、3番から7番に降格していた中村だった。

 ただ、仮に2死二塁となっていれば、楽天ベンチは右の福山博之から、左の高梨雄平にスイッチしただろう。そうなると左対左の対決となり、中村には代打が送られていたかもしれない。2死一塁だったから、右の福山が続投、中村がそのまま打席に入り、本塁打が飛び出したのだ。それが、試合の流れ、勝負のアヤ、選手起用の妙でもある。あらゆる要素が、最後の最後に“味方”しての逆転勝利で苦境をくぐり抜けたソフトバンクはこれで息を吹き返した。

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