4戦目のヒーローは、1点を追う6回、CS史上初となる同一ステージ4試合連続本塁打を放ち、指揮官が「神がかっている」と絶賛した4番・内川聖一だった。左手親指付け根の骨折で、7月下旬からおよそ2カ月の戦線離脱を余儀なくされた主将は、優勝争いの胸突き八丁の夏場に貢献できず「チームに迷惑をかけた」。汚名返上のチャンスとばかりに、並々ならぬ決意でFSに臨んでいた。

「僕は優勝して救われた。ここで負けたら、柳田が一番つらい思いをする。そんなことはさせてはいけない」

 後輩の心中をおもんぱかりながら、自らのリベンジに燃えるベテランの心意気に打たれた指揮官は「顔を見ても生き生きしている」と、内川の「4番」を決断した。FSでの5試合で、先発メンバーの打順が変わらなかったのは、内川と6番の松田だけ。その絶好調の4番に続き、2者連続となる勝ち越しの本塁打を放ったのが、この日は5番の中村だった。2戦目のバント失敗が「ずっと頭に残っていた」と苦しみ、しかも3、7、5番とめまぐるしく打順が変わる中、3戦目に続いての2試合連続決勝アーチという離れ業だ。

 アドバンテージの1勝を加え、日本シリーズ進出に王手をかけた5戦目、待ちに待った柳田が1軍合流。およそ1カ月ぶりの戦列復帰だ。しかも工藤監督は「出るのが、福岡のファンの皆さんにとっても、一番燃える」といきなり1番に据えると、柳田は1回、先月20日以来の試合とは思えないフルスイングと全力疾走を見せ、ショートへの内野安打で出塁。このヒットを足がかりに、内川が先制の中犠飛、さらにFS4試合でわずか2安打と不振に陥っていた松田が右翼フェンス直撃となる2点二塁打を放つなど、初回から3点を先制。松田は4回にも1号2ランと、チームの勢いに乗っての復調はまさにお祭り男の本領発揮だ。

 投げても、先発の武田翔太が7回を5安打無失点。8回からは岩崎翔、森唯斗、最後は守護神デニス・サファテが締めくくっての完封リレーで、7-0の快勝。今季、先制した82試合で73勝9敗のソフトバンクは柳田の復帰をきっかけに、見失いかけていた必勝パターンを苦しみ抜いたFSの最後の最後に取り戻した。

 MVPに輝いた内川は「初戦、負けた時点で(FSの突破確率が)0%だというのが、どこ(の新聞)を見ても書いてあったので、変えるしかないと思ってやっていました」。過去の“負のデータ”も塗り替え、2年ぶりの日本シリーズ進出。工藤監督はきっぱりとこう誓った。

「日本一になることしか、考えていません。100%以上の力を出して、ひとつになって勝てるように、またヤフオクドームで、胴上げしてもらえるように」

 苦闘を自分たちの力で乗り越えたその自信は、鷹をまた一回り、強くしたかもしれない。(文・喜瀬雅則)