これによってサッカー界に与えられた大きな変化が、有力選手との長期契約による囲い込みと、前述の契約解除への違約金、つまり移籍金による選手移籍のビジネス化だ。超高額移籍で話題になったのが、2001年夏にユベントス(イタリア)からレアルへ移籍したフランス代表MFジネディーヌ・ジダン(現レアル監督)だ。当時、世界最高のトップ下として君臨していたジダンの移籍金は4600万ポンド(約66億円)という巨額なもので、その後10年近く破られないレコードになった。当時のユベントスはその移籍金を原資に現在もイタリア代表GKとして活躍するジャンルイジ・ブッフォンやチェコ代表MFパベル・ネドベド、フランス代表DFリリアン・テュラムなどを獲得した。ジダンはレアルで高額移籍金に値する活躍を見せ、ユベントスも入れ替わりに入った選手がチームの屋台骨として活躍した。超のつくほどの高額移籍であったが、同時に移籍元のクラブも得た移籍金を有効に活用した事例だ。

 そうした成功体験を目の当たりにすると、資金力のあるクラブはこぞって有力選手への投資を惜しまなくなった。前述の違約金というシステムでは、年齢が若く、さらに残りの契約期間が長い選手ほど移籍金の金額は上がっていく。いつしか、シーズンオフの話題は有力選手の移籍とその金額がメインになっていった。

 逆に言えば、若く有力な選手を注目されていないうちに発掘して育て上げ、高額の移籍金でビッグクラブに移籍させるという、いわゆる育成型の移籍金ビジネスも確立された。例えば、15年にマンチェスター・Uに移籍したFWアントニー・マルシアルは、移籍元のモナコ(フランス)が13年にリヨン(フランス)から600万ユーロ(約7億8000万円)で獲得した選手だ。しかし、その2年後の価値は3600万ポンド(約68億円)まで跳ね上がった。さらに、いくつかの条件をマルシアルがプレーで満たすと最大5800万ポンド(約105億円)まで跳ね上がる付帯契約が付いているとされる。

 このように、単純な移籍金だけでなく、例えば、チームの成績や個人の成績によって成果ボーナスが加わる変動制のもの、期限付き移籍に期間終了後の買い取りオプション、あるいは義務がつくもの。また、次のクラブに移籍した場合の移籍金の一部を受け取れるようにする契約など、ビジネス要素が強まった選手移籍の形態は多彩になっている。

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