これまでで延べ約2万人分のデータが蓄積されたが、「病院にかかる前」のこれほど様々な項目の健診を継続的に調査したデータは世界にも例がない。全国的な注目を集めて参加企業は年々増え、今では、大手飲料メーカーなど約40社がプロジェクトに参加している。

「例えば、約千人のお腹周りの脂肪の測定値と2千項目のデータをぶつけられる。認知症や糖尿病と関係あるのか、肥満度や心臓、免疫、腸内細菌とどう関係しているのかがわかってくる。それぞれの企業が見たい方向からデータをぶつけられるのですから大変魅力的なわけです」

■健康も寿命も自分で作る時代

 健康増進プロジェクトを成功させるなら、地域住民を軸として、「医学・健康」の産学官民の多職種が集うプラットフォームが必要と中路教授は説く。

「会議で集まったって健康づくりなんてそう簡単には動かない。同じ汗を流して考え行動する。お互いがある程度理解し合わないと進まない。産学官民の本当の意味での連携が必要です」

 中路教授が目指すのは「プライマリヘルスケア」。つまり、「住民の住民による住民のための健康」だ。誰でも健康になる権利はあるが、所詮それは自分で勝ち取らなければいけないものだ。地域で、職場で、学校で、それぞれがヘルスリテラシーの力をつけていかなければならない。そうしたプライマリヘルスケアの意識の高い個人が集ういい町や社会が活性化したところは「長生きできる」と中路教授は言う。

「いい町とは、住民各々が社会的な役割もある程度持てているところなのではないかと。お年寄りが存在感をなくした世の中では寿命が短くなる。社会的な役割さえあれば自分の頭で考えるので、ボケない、死なない、自殺しない」

 もはや、健康も寿命も自分で作る時代である。

「青森県の短命県返上の取り組みや研究は、これから日本全体で役立ちます」

(文/石川美香子)

※週刊朝日MOOK「おいしい暮らしの相談室 糖尿病&高血圧」より加筆