そこで、私は病気を周りにオープンにしようと思いました。病気とわかってもらうことで、サポートをしてもらえ支えてくれる人がたくさんいる事を知ったからです。

 そう思うまでには葛藤がありました。まだまだ偏見を持っている人が多いからです。家族に迷惑がかかるのではないか、子供達がいじめられたりしないかなども考えました。ある日、両親に相談したら「何も悪いことをしているのではないのだから私達のことは気にしないで自分の思うようにオープンにしなさい」と言われました。子供達にも、もしかしたら友達に知られるかもしれないよと話をすると「パパは良いことをしているのだからいいんじゃない」と言ってくれました。

■人生は認知症になっても新しく作れる

 病気をオープンにすることでサポートや支援を受けられるようになります。私は認知症になっても周りの環境さえよければ笑顔で楽しく過ごせることを知りました。認知症と診断された後は、環境が一番大切だと感じています。

 できることを奪わないで下さい。時間はかかるかもしれませんが待ってあげて下さい。一回出来なくても次、出来るかもと信じてあげて下さい。そして出来た時には当事者は自信を持ちます。失敗しながらも自信をもって行動する、周りの人は失敗しても怒らない、行動を奪わない事が気持ちを安定させ進行を遅らせるのだと思います。失敗しても怒られない環境が認知症当事者には必要なのです。

 病気になった時、最初の一歩を踏み出すのは大変なことでしたが、踏み出すことにより人生が変わり、多くの認知症とかかわる人と知り合うことができました。私自身、これからの暮らしに対し安心することができ、進行も遅くなっていくような気がしています。

 認知症になったら、当事者や家族は、どうしても認知症になる前の姿を追い求めてしまい、出来なくなることを受け入れることができません。今までとは違う姿を見せたくないと思っている家族も多くいます。今までのようにはいかないと受け入れる勇気が必要だと私は感じています。出来なくなった事を受け入れ、よい意味であきらめる事で、できることを楽しんで生活するようになった全国にいる私の仲間たちは、とても輝いています。

 認知症と診断されることを恐れて病院へ行きたがらない人が多くいます。楽しい「人生の再構築」をする為にも早期診断、支援とのつながり、社会参加が必要で異変を感じたら早く、病院や相談窓口へ行ってほしいと思います。

 人生は認知症になっても新しく作ることが出来るのです。認知症は、けっしてはずかしい病気ではありません。誰でもなりえる、ただの病気です。これからますます増えてくる認知症、みなさんもいつなるかわかりません。ぜひ、みんなで支えあう社会を作りましょう。私も認知症ですが、同じ認知症の仲間を支えていきたいと思っています。

*4月に京都で行われた国際アルツハイマー病協会国際会議で丹野さんが発表されたものを、本人の許可を得て編集部で再構成しました

(構成/平井啓子)