14年10月に医療・介護関係者の勉強会で再会し、西村さんはその後の食事会にも顔を出した。短い時間だったが、「金沢マギー」の意義を熱く語り、合間にスマートフォンでメールチェック。ほとんど食事は口にせず、退席したと記憶している。思えば後ろ姿には、疲れ以上の重苦しさがあった気がする。その場にいた全員が「お忙しそうですね」と声を掛けて見送った。

 西村さんは15年3月にがん宣告を受けた後、抗がん剤、手術、放射線と主要な治療を経験し、免疫療法も受けて今に至っている。肝・リンパ節転移が疑われた後は、「手術をすべきかどうか?」と迷ったこともあったが、前のめりでがん治療を続けてきた。「自分が外科医だから手術をしたけれど、腫瘍内科医なら抗がん剤治療を選んだかも」という。医師としての人生を、患者として肯定していく重い選択である。この結果、初診では「余命半年」だったが、発症から2年以上が経過し、「元ちゃんハウス」の主として頑張ることができている。

 西村さんは治療を受けながら、基金を設立し、講演を行うなどして寄付金を募ってきた。「金沢にマギーを」という一心で奔走してきたところ、支援施設の名称案はいつの間にか「マギー」から「元ちゃん」になっていた。英国の女性がん患者の名前である「マギー」を冠したのがマギーズセンターだったのだから、「金沢なら『元ちゃんハウス』がいいだろう」と、支援者から自然に声が上がるようになっていった。皮肉だが、がんの発症が構想を後押しし、実現を早め、16年12月1日に「元ちゃんハウス」はオープンしたのである。

「元ちゃんハウス」は、がん患者や家族が自由に立ち寄り、医療者ら交流できる場所である。平日は午前11時から午後3時まで看護師ら専門職が1階で訪問者に対応する。また、第2・第4火曜日と第1土曜日は午後1時から4時まで3階でがん患者らが交流する。料理教室や勉強会なども随時開催している。

 ふと見ると、80代の女性が西村さんの手を取り、ソファに身を沈めて、がんが疑われる肉親について相談していた。親しみやすい「元ちゃん」は医師の顔に戻り、たまたま担当医が知り合いで患者自身から「聞いてきて!」と頼まれてきたとのことだったので、すぐに電話して病状を把握。女性へ簡単に状況を説明した後、「緊急性はないようだから、しばらく経過を見ればいいよ。安心してと伝えて」と話した。

 「元ちゃんハウス」ではスタッフ一同、できる範囲で「患者ファースト」のがん医療の手助けが実現するよう心を砕いている。

 西村さんが語る「病院や医師を選ぶ時のポイント」はこうだ。

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