●まずは最寄りのがん診療拠点病院に行くべきだが、遠慮せずセカンドオピニオンも受けてみよう。


●医師との相性が合わなければチェンジする勇気も。看護師、薬剤師との連携ができているかも重要。
●家族のサポートが得やすいよう、病院がどのエリアにあるかを考慮しよう。
●治療を受ける病院で困ったことがあれば医療相談室に聞いてみよう。

 これらは裏を返せば、がん患者と向き合う医師の心得ともなる。西村さんが北陸にある国立大学付属病院で現職の医師を前にした講演を聴いたことがある。そこには「元ちゃん」本来の陽気さよりは、医師としての厳しさが見て取れた。患者となった心境を赤裸々に語った後、時間をいっぱいに使い、パワーポイントで現在のがん医療を取り巻く現状やその問題点を次々と指摘していった。

 例えば、抗がん剤治療による味覚障害で甘さを強く感じた時に、甘みの強い薬を飲まされた不快感などを紹介した。

「自分も患者さんに何度も処方してきた薬だけど、飲めたものではなかった」(西村さん)

 このほか、体験しなければ分からない治療の苦しさや戸惑いを列挙した。言外には「患者の身になって考えよ。そうでなければ、患者の信頼は得られないぞ!チェンジされるぞ!」との思いをたっぷりと盛り込んだ提言である。後輩医師への叱咤激励、自身への反省を込めた苦言といえる内容だった。

「今の時代、ネット上にがんに関する情報があふれ、患者は玉石混交の内容に振り回されている。ネットから得た治療を要求する患者の声を医師が突っぱねたり、切り捨てたりしてはいけない。ちゃんと説明できるようにしなければいけない。また、患者も安易な情報をうのみにせず、病院や元ちゃんハウスのような場所を活用してがん経験者や専門家の助言から学ぶ必要がある」(西村さん)

 医師と患者、双方を生きる西村さんの姿に「天命」という言葉が浮かんだ。辞書によると、(1)生まれた時から定まっている運命。宿命。(2)天から授けられた寿命。天寿。(3)天の命令。天から与えられた使命……とある。

 がんという運命を受け止め、寿命が続く限り、使命を全うする……元ちゃんハウスで忙しく相談に応じる医師・患者である西村さんに、人生をかけてがんと向き合う覚悟を見た。(ライター・若林朋子)