佐倉統:人間ならではとされる温かみのある特性や独自性も、進化をさかのぼれば動物など人間以外の生き物たちにその萌芽(ほうが)があり、何らかの転用を経て人間に備わってきたということですね。

 私も、もともと大学院でサルの生態を研究していたこともあり、動物・生物を知ることで人間の独自性を見いだしていくのが好きですね。今は科学技術と社会の関係を研究していますが、きっかけは、サルに対するとらえ方が日本と欧米の研究者で大きく違っていたことでした。日本はもともと、サルとなじみが深いので、研究の場でも名前をつけたりして擬人的に扱いますが、アメリカでは以前は「そんなのは非科学的だよ」と、番号で管理して非常に淡々としていました。そうしたアプローチの違いが面白くて、サルの研究がいつしか「サルの研究者の研究」をするように。そこから発展して、社会と科学の関係、たとえば脳と社会の関係などを扱うようになりました。

――共感のように人間ならではと思われるものの原型が動物にあるとしたら、「恋愛」はどうでしょうか? 動物もフェロモンを分泌して異性の気を引いたりしますが、これは動物にとっての恋愛といえますか。

池谷:特定の相手にぞっこんになったりするのは人間だけで、動物は違うかもしれないですよ。というのも、交尾中など恋愛のような活動をしているサルの脳と、恋愛中の人間の脳のMRI画像はまったく違っていて、恋愛中の脳の画像は、親ザルが子どもを守っているときと似ているんです。だから私は、恋愛というのは動物の親が持つ子に対する脳の働きが、何らかの作用で赤の他人に向かってしまったものではないかと思っています。愛情ホルモンといわれるオキシトシンの分泌の様子も、動物の子育てと似ています。

佐倉:オキシトシンは、プレーリーハタネズミなど一夫一婦型の動物は、そうでない種よりも活発に分泌されますね。つまりはネズミでも、子に対する愛情と異性に対するそれの根底に共通点があって、それが原型となって人間の恋愛へと変化したのかもしれませんね。

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