■ちょっと意外? AIにはない人間らしい特性とは

佐倉:動物・生物の中で人間というものをとらえるだけでなく、今や比較対象はロボットやコンピューター、AIにまで広がっています。2016年には、韓国の囲碁棋士のイ・セドルが、囲碁のAI「アルファ碁」と対戦して負けてしまいました。このときイ・セドルは「実力では負けたと思っていないが、体力や集中力ではかなわなかった」という旨の発言をしましたが、この一件で、囲碁は先の手をどこまで読めるかといった知能勝負のようでいて、持久力や休憩のとり方、ひいては相手との会話やダメージの与え方など、知能以外の要素も重要なのだということが見えてきました。とても面白いできごとでした。

池谷:AIと人間の違いは、長時間の対局でもパフォーマンスを維持できるなど、AIは疲弊しないし、判定の安定性が高いことがあります。「ネイチャー」の論文(2017年1月25日)によると、スタンフォード大学の研究グループが、AIにほくろと皮膚がんを画像から見分けさせたところ、医師並みの高い精度で判定に成功したそうです。何万件もの画像のほとんどがほくろで、皮膚がんはわずかしかない場合、人間はがんを見逃してしまいがちです。

佐倉:では、人間ならではのものとは何だと思いますか。やはり思いやりなどの温かみのあることだろうと考えがちですが。

池谷:温かみのあるようなこともAIには意外に簡単にできて、人間より優れていることも多々あります。カウンセリングなど悩みを聞いて助言するようなことは無理だろうと思っても、アメリカの医療の現場では、生身のカウンセラーではなくAIに相談したい人が出てきているといいます。AIは集中力が強いしイライラしたりしないので、話を聞きながら時間を気にして時計を見てばかりなんていうことがないし、機械相手だと話しやすいのでしょうね。生身の人間が相手だと、気後れしたり体面を気にしたりして、心の内をさらけ出せないこともありますから。

佐倉:温かみが人間らしさとは限らないとなると、人の特長とはどんなことになりますか。

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