残念ながら、長谷部は離脱を余儀なくされたが、状況は2014年と酷似している。とはいえ、大きな違いもある。それはW杯の「本番」ではなく、まだ「予選」ということ。時間的な余裕がある。

 2010年10月に監督に就任したアルベルト・ザッケローニは、翌年のアジアカップで優勝を飾ると、その後もW杯アジア3次予選と最終予選を危なげなく突破。東アジアカップで初優勝を果たすと、アウェイでオランダと0-0のドロー、ベルギーには3-2の逆転勝ちを収めた。監督や選手はもちろん、ファンの多くがブラジルでの躍進を期待した。だが、結果はグループリーグで敗退。当時の原技術委員長と霜田委員は、「ザッケローニ監督のチーム作りが順調だったことが唯一の誤算」と振り返った。

 例えば、フィリップ・トルシエ監督は、1999年のコパ・アメリカの惨敗により解任の危機にさらされた。その後のジーコ監督は、2次予選のシンガポール戦で敗退すれば更迭だったし、岡田監督も2010年2月に地元で開催された東アジアカップで韓国に1-3と敗れ、試合後の会見で自身の出処進退を犬飼会長に委ねると発言したこともあった。

 解任の危機を迎えたことで、監督も選手もこれまで歩んできた道が正しいのかどうかを検証できる。岡田監督は中心選手の中村俊が負傷によりコンディションで上がらないことで、南アW杯では本田のゼロトップという守備的なスタイルでベスト16に導いた。それに対して、ザッケローニ監督は、解任の危機なく順風満帆なままW杯に臨んだことで、“次善の策”を持たずにブラジルへ乗り込んでしまった。それを原技術委員長と霜田委員は悔やんでいたのである。

 翻ってハリルホジッチ監督は、アジア最終予選の初戦でUAEに逆転負けを喫しただけに、10月のイラク戦とオーストラリア戦、11月のサウジ戦と、敗れれば即敗退という状況に追い込まれた。それは明日のUAE戦も含めて今後も変わらないが、ハリルホジッチ監督はその都度、逆境をはね返してきた。そして、その過程ではプラス材料も加わった。チームの結束力である。

 それは選手自身も実感している。酒井高徳は試合前日のミックスゾーンで「誰が出ようとチームは変わらない。団結力を高めて試合に臨みたい」と言えば、吉田も「長谷部さんがいないのはアンラッキー」と話した上で、「今回は長谷部さんだけど、違う選手が欠けることもある。厳しい時だからこそ、成長できるチャンス」と前向きにとらえている。

 ほかにも、長友や宇佐美の出場機会の減少によるコンディションへの不安など、マイナス材料をあげたらきりがない。とはいえ、これくらいのハンディでUAE相手に右往左往しているようでは、ロシアW杯でベスト16以上を目指すのは現実的とはいえない。

 昨年9月のUAE戦後、田嶋JFA会長は、W杯予選で「負けていい試合はないが、これが初戦でよかった」と本音を漏らした。そして「残り9試合、しっかり勝てばいい」と続けた。まさに、その通りである。(現地取材=サッカージャーナリスト・六川亨)