心臓外科の名医 かつての“3K職場”での経験がいまも生きる (2/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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心臓外科の名医 かつての“3K職場”での経験がいまも生きる

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羽生医師が人工心肺を使わずに行う「冠動脈バイパス手術」(小倉記念病院提供)

羽生医師が人工心肺を使わずに行う「冠動脈バイパス手術」(小倉記念病院提供)

「微力だけど無力じゃない」とチームを鼓舞する

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■日本を代表する3人の医師から学ぶ

 その羽生医師には“3人の恩師”がいるという。はじめの京都大学病院では伴敏彦教授(当時)、土谷総合病院では望月高明医師、小倉記念病院では岡林均医師の指導を受けた。いずれも日本を代表する心臓血管外科医だ。

「3人の先生からは技術や治療方針の立てかたはもちろん、『絶対に諦めない』という姿勢を学びました。他では手術を断られた重症の患者さんも、思いをくみ取り、何とか手術できないかと必死に策を考える。手術中に容体が急変しても、『必ず立て直す』と諦めない。その姿勢と、ここぞというときの『引き出しの中身』を間近で学べたことは大きかったです」

 今働いている小倉記念病院には、九州全域や広島県、遠くは関東からも患者が集まる。16年春、弓部大動脈瘤の患者が来院した。かつて別の病院で手術を受けた際に冠動脈につないだバイパス(内胸動脈)2本が、弓部大動脈瘤に巻き込まれていて、しかも瘤が胸骨に密着しているという深刻な状態。普通に手術をすれば瘤が大破裂することは必至だった。

 しかし羽生医師は絶対に諦めないという姿勢で、大動脈弁狭窄(きょうさく)症の治療に用いる「経カテーテル術(TAVI)」も取り入れ、弓部大動脈を人工血管に置き換える手術を行った。時間はかかったものの無事に成功し、患者は元気さを取り戻した。

 そんな羽生医師の得意な手術の一つが、人工心肺装置を使わずに行う「心拍動下冠動脈バイパス手術(オフポンプ)」だ。狭心症で心臓の冠動脈の血流が悪くなった場合、別の血管を迂回路(バイパス)としてつなぎ、血流を回復させる。

 90年代までは心臓の動きをいったん止め、代わりに人工心肺装置で全身に血液を送りながらのバイパス手術(オンポンプ)が大半だった。しかし患者の負担が大きいこともあり、今では人工心肺装置を使わず、心臓を動かしたまま血管をつなぐオフポンプ手術が主流になっている。

 ただそのぶん、執刀医には高い技術が要求される。冠動脈は直径1.5~2ミリほどで、手術時の心臓は動いたまま。その状況下で、迂回路となる血管を素早くつないでいく。しかも通常は3~4カ所の冠動脈にバイパスをすることが多い。

「手術では出血させないことが重要です。出血すると処置が必要で、時間もかかってしまう。迂回路となる血管をつなぐときは、心臓の拍動に合わせて一発で決める。バイパス手術の基本は『確実に着実に』です」


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