同手術は全身麻酔で行われることもあり、患者への負担はカテーテル治療より大きい。ただし1回で数カ所まとめて手術して、問題を解決する。術後、胸痛や息切れなどのつらい症状は消え、多くは見違えるように元気になる。

「7年前に狭心症でカテーテル治療を繰り返していた若い患者さんがいました。3カ月ごとに会社を休んで入院、検査に治療。職場ではかなり肩身が狭かったようです。内科医の勧めもあって、冠動脈バイパス手術をしました。2週間入院しましたが、その後は再発することなく元気に仕事に打ち込まれています。こうした再発率の低さもバイパス手術の大きなメリットです」

■万全の準備をして最高の状態で臨む

 06年に小倉記念病院の心臓血管外科主任部長になってから10年が経つ。もう熟練の域に達していると思われる羽生医師だが、「まだまだです。それに完成したと思ったら医療の進歩はありません」とあくまで探究心を忘れない。連日、重症例の心臓手術に取り組み、24時間365日態勢で緊急患者も受け入れる。

 手術が終わり、翌朝に合併症もなくホッとしていたら、次の患者が来るという繰り返しだ。

「通常の手術では準備万端整えて、最良のコンディションで臨むようにしています。患者さんもいい状態にして、麻酔科医や看護師、臨床工学士のスタッフも最高の実力を発揮する。手術時は一つひとつ確認作業を怠らない。鉄道の運転士が細かく指さしして、安全確認をしながら列車を動かすように、手術でも何百という確認作業があります。それを一つずつクリアしながら進めていく。一方、緊急の患者さんが搬送されてきたときは、王道が通じないことも多い。『どんな方法だったらうまくいくのか?』を即座に考え、決断し、チームで実行していきます。今後も最高の治療を提供していきたいですね」

小倉記念病院 副院長 心臓血管外科主任部長 羽生道弥
1986年、京都大学医学部卒。同大学病院、土谷総合病院を経て、2001年から小倉記念病院。06年に主任部長、13年副院長。
<実績> 合計手術数 約4000例(冠動脈バイパス手術2000例、心臓弁膜症の手術2300例、胸部大動脈瘤の手術600例など。合併手術のため重複あり)

※週刊朝日MOOK「新名医の最新治療2017」