羽生医師が人工心肺を使わずに行う「冠動脈バイパス手術」(小倉記念病院提供)
羽生医師が人工心肺を使わずに行う「冠動脈バイパス手術」(小倉記念病院提供)
「微力だけど無力じゃない」とチームを鼓舞する
「微力だけど無力じゃない」とチームを鼓舞する

 重症の患者や痛みに長年苦しんでいる人を救う外科医。自身の技術を上達させ、患者の負担が少ない低侵襲の手術を実践する名医に、週刊朝日MOOK「『名医』の最新治療」で迫った。その中から、小倉記念病院副院長であり、心臓血管外科主任部長の羽生道弥医師(57)を紹介する。

■どんなに難しい患者でも絶対に諦めない

 ひと口に心臓病と言っても、心筋梗塞、弁膜症、大動脈瘤(りゅう)とさまざまある。心臓病の手術数が全国トップレベルの小倉記念病院(福岡県北九州市)。心臓血管外科主任部長として腕を振るっているのが羽生医師だ。出血の少ない正確な手技は、同じ心臓外科医からも一目置かれている。

 ただ本人は謙虚で少しも偉ぶるところがない。今回の取材を申し込んだときも、「私でいいんですか?」と控えめだった。

「他の著名な心臓外科医と比べて派手さはないし、口下手なので……」

 2017年で医師32年目を迎える。年間の執刀数は約300例、通算では4千例を超え、日本のトップ心臓外科医の一人だ。だが意外にも、大学の医学部生のときは「小児外科」志望だった。

「乳幼児の生命力の強さに惹かれました。大人と違って『どこが痛い』と言えなくても原因を探りあて、治してあげたいと思ったんです」

 ところが大学6回生のとき、研修先の京都大学病院で考えが変わる。小児外科と同じ病棟内に心臓血管外科があり、重症患者にチームワークで挑む先輩たちを見て、「心臓は生命により深く関わる分野。自分も力になりたい」との気持ちが強くなった。

 1986年、医学部を卒業して心臓血管外科医に。病院の手術室で先輩から技術を学び、手術後は病院に泊まり込んで患者の容体を細かくチェックする毎日だった。

「当時の心臓血管外科は“3K職場”でしたよ(笑)。でも泊まり込んで、術後の患者さんの様子を細かく診られたことは大きな経験でした。当時の心臓手術は術後の合併症が多かったのですが、どんな状態が続くと合併症が現れるのか。それを未然に防ぐには、どんな手を打てばよいのか。いろいろ学ぶことができました。命もかなり救いましたよ。経験は今も生かされています」

 続いて移った土谷総合病院(広島市)では成人に加えて、新生児や小児の心臓手術を数多く担当した。ここでも麻酔科医と泊まり込み、手術と術後のケアを繰り返し学んだ。

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