「起業家を助ける人がいればいいのに」

 公認会計士ならば、父のような人を助けられるのではないか、経営者の周りで苦しむ家族を減らすことができるのではないか。なかなか軌道に乗らない父の起業を巡る「原体験」が、斎藤の強固なミッションに結びついた。

 とはいえ、公認会計士になるまでの道のりは苦難の連続。3度失敗した段階で諦めかけた。家庭の厳しい懐事情を考えると4度目のチャレンジは難しかった。気力も残っていなかった。ところがある日、母がパートで貯めていたへそくりを斎藤に差し出してくれた。再び火がついた。途中で心が折れそうになっても、自分の原点を見つめ返して乗り越えた。苦しみを克服するには、ミッションと同時にマインド(心構え)が必要だと身をもって知った。

■平日の夜と週末に起業家を訪ね歩く

 ついに試験に合格し、有限責任監査法人トーマツへの就職が決まった。ベンチャー企業に強いという定評があった会社で夢を実現できる。ところが、配属先は新興企業の株式上場をサポートする部署。つまり、ある程度軌道に乗ったベンチャーを支える部署だった。起業したベンチャーの商品やサービスが軌道に乗る前の、一番苦しい時期を支えたいという自身の思いとは隔たりがあった。

 大企業に入った一般的な新入社員なら、この時点でほぼ全員が自分のやりたいことを諦めるに違いない。だが、斎藤は違った。

 ミッションは揺るがず、それどころか手弁当で一人、ベンチャー企業を支援するための行動を始めた。通常業務がない平日の夜と週末に、ベンチャー企業の経営者を訪ね歩いた。

 しかし、ベンチャー起業家は、試験に通ってもまだ公認会計士修行中の若造と付き合うほど暇ではない。公認会計士が必要になるのは黒字になってからだ。アポ入れの電話をしても体よく断られるのが常だった。ちなみに06年といえば、ライブドア事件があった年。年々「ベンチャーをやる人はほとんどいなくなっていた」という状態での挑戦だった。

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