4年近くほぼ毎晩ベンチャー企業関連の飲み会に出たり、やがてフットサルイベントを自ら主宰したりして、ネットワークを広げ続けた。当然すべて自腹。給料が20万、30万円の時に毎月10万円を当てた。飲み代だけでこれまで1000万円以上をつぎ込んだ。海外事業を立ち上げるときも有給休暇を使ったという。

お金がないから10年ずっと1Kに住んでいました。今年になり、やっと1LDKに引っ越すことができたんです(笑)」

 転機は10年10月。組織としてベンチャーの経営全般を支援する新規事業に取り組むことが決まり、トーマツグループ内で休眠状態にあった「トーマツベンチャーサポート」が復活したのだ。とはいえ、スタッフは斎藤一人。しかも、相変わらず会計士の仕事としての監査業務は続けることになっていた。

■人と人をつなげば信頼が生まれる

 地道な努力は少しずつ花を開き始めた。会社で認められたのは、1年で10社以上、IPO(新規上場)の仕事を取れるようになったことも大きい。これは企業が株式上場する前の支援業務のことで、多くの監査法人が提供するサービスだ。

 社内ではこう立ち回った。

「新しいことを成すには、ビジョン、数字、政治が大事。会社を巻き込むにはどうすればいいか。僕の場合、会社の仕事は量をきちんとこなしました。なかでもIPOの支援サービスを何社取れるかを目標にし、コンペでは100%勝ちました。人脈を築きベンチャーの一番つらいときを支えたからです。飲み代が実を結んだのかもしれません」

 振り返って、20代半ばの半人前の青年がベンチャー企業に唯一できたことは「人材紹介だった」と言う。大企業、メディア、政府などと築いた人脈をベンチャー経営者につなげることで、信用が増していった。

「ベンチャー経営者の頭の中を占めているほとんどは、売り上げアップ、人集め、金集めの3つ。僕はベンチャーを取り巻く環境を良くしようと思っていたので、大企業の役員を紹介したり、メディア関係者を紹介したり、ベンチャーキャピタルも紹介したりすることで喜ばれた。潰れそうだったベンチャー企業がテレビ番組に取り上げられて売り上げが60倍に伸びたこともあります」

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