第19回度手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の受賞記念として、吉田戦車さんと伊藤理佐さんの公開対談が行われた。対談相手の伊藤さんは吉田さんの妻で、自身も第10回の同賞短編賞を受賞。貴重な対談をほぼ全文の形で紹介する。
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■手塚治虫文化賞短編賞は突然に
吉田戦車(以下吉):これで我が家にアトムが2体あるということになったので、片方をウランちゃんに改造するというのはどうかな。
伊藤理佐(以下伊):それが、「俺、今最初に言いたいことあるから言う」って打ち合わせで言ってたこと?
吉:そう。(ブロンズ像制作者の)横山宏さんは知り合いだから、作ってもらえますよ。あとさっきから思っていたのが、この壇上と幼稚園のステージはちょうど同じくらいの大きさですね。
伊:うちの5歳児が通っている幼稚園ね。
吉:うちの子は、今日は来てなくて、ベビーシッターさんが見てくれてます。まあ、連れてきても良かったんですけども、見せなくてもいいかな。
伊:言いたいことはそれだけかい(笑)。
吉:手塚治虫文化賞の大賞は、ノミネートされてから連絡が来て選考されるということなんですけれども、短編賞はいきなり「受かったんですけど受けますか?」って電話が来て、非常にびっくりするんですよね。
伊:受賞した日の夜の話ね。
吉:スピリッツの担当編集から電話があったんで、描き直しかな?って。こっちは「ノミネートしていただくんなら喜んで」と言ったら「本決まりだそうです」って。
伊:夜8時くらいに連絡が来て、そのくらいの時間ってうちはもう電話がかかってこないから、この口調は岩手のお母さんから電話だなと思って、子どもと遊びながら聞いてたの。「いただきます、いただきます」と言うから、絶対、母に頼んだ乾麺が来ると思ったの。だっていつも頼んでるじゃん。
吉:岩手でしか買えないやつね。
伊:と思っていたら、吉田さんがふすまをパッと開けてさ。「手塚賞、短編賞、いただきました」って。ころげたもんね、びっくりして。そのくらい短編賞はいきなりやってくるんですよね。
吉:伊藤さんは、すでにその世界では先輩なわけですけれども。
伊:私のときも、双葉社の担当編集者さんからさらっと電話がかかってきて、「今電話があってー、手塚賞短編賞取ったって連絡なんだけど、ほんとかな?」って言うから、「騙されてるんじゃないですか」って聞いたら、「俺だって騙されてるかもしれないと思っているんだよ!」って逆ギレされて(笑)
吉:ヤマザキマリさんもそう言ってたね。確か『コミックビーム』の名物編集長から電話がきて、「あ、なんか受かったらしいんだけど」ってね。今回、伊藤さんは結構喜んでくれたんですけれども、コノヤロー、余裕かましてやがんなって。
伊:だってすごい嬉しいんだけれど、9年前に私も取ったから、「すごいよー、手塚賞取ったってすごいよー」と言うと、自分も一緒に上がっちゃうじゃない。
吉:自慢かいって(笑)それで、しばらくは箝口(かんこう)令が。ツイッターとかに書いちゃだめだよと言われてたんで、とりあえず近所のママ友とか子どもたち呼んで、宴会して。無理やり祝わせたということがありましたね。