居酒屋やすし屋で聞き込み
斎藤さんは食材の撮影に行くと、現地で面白そうな居酒屋やすし屋を訪れるという。
「カウンターに座ると、ご主人に『何しにきたの?』って尋ねられるじゃないですか。そこで『梅干しを見せてもらいにきました』って答えると、『はあ、 梅干し? みんな熊野古道を歩きに来るよ』とか、言われる。そこで事情を説明すると、結構いろいろ語ってくれます。食材って、料理人であれば誰でも一家言ありますから。それを聞くのが旅先での楽しみであり、取材にもなっていますね」
普段、料理シーンを写すことが多い斎藤さんは、「料理への深い知識と理解がなければ、被写体のどこにポイントがあるのか、わからない」と言う。
「シェフが『こういう料理法をとりました。味つけはこうです』と説明したとき、『わかりません』とは言えませんから」
勉強のため、料理教室に通うこともある。
「例えば、イギリス料理はおいしくない、といわれますけれど、実際はどうなのか。現地の料理教室に1週間通ったことがあります。自分なりにそうやって知識をつけないと、料理は撮れない。料理ときちんと向き合う、ということです」
梅干しの完成品がない理由
6年ほど前から食材を撮るようになった背景にも、料理への理解を深めたい、という気持ちがある。
「名だたるシェフたちが、『自分たちは魔法使いじゃない。よい食材を使わなければ、絶対によい料理にはならない』と言う。じゃあ、その料理にたどりつくには、どんな食材が必要なのか、知りたくて、畑や海を訪ねて撮影した。そこで自分なりに学びを得ようとしたんです」
19年、撮りためた写真で作品展「食の絶景」を開いた。「畑で作った野菜や海でとれた魚を『絶景』として見せた」。
ただ、「大きなテーマに取り組む」という意気込みが前面に出過ぎたという。手の込んだ料理やさまざまな食材を取り上げたが、「とっ散らかって、あまり核心が見えてこなかった」。
そんな思いもあって、10月12日から開く写真展「私が食べているものを 作っている 人たちのこと」では、おむすびをテーマに、被写体をノリと梅、茶、鮎に絞った。
「そうすることによって深いところまで見せられるし、私の感動みたいなものが伝わると思います。なので、『食の絶景2』ではないですね」
齋藤さんは続けた。
「素晴らしい食材を作り出す人って、面白いし、情熱の人なわけです。今回はそんな人たちのポートレートを中心に作品をつくりました。なので、こんな小説みたいなタイトルになった。そのものズバリだな、と思います」
作品を見て気になったのは、おむすびに入れる梅干しそのものの写真が見あたらないことだ。
「完成品は写真展会場で売るんです。来場者に実物を見てもらう。お茶やノリもそうです。鮎は甘露煮などを用意します」
ユニークな写真展では生産者とのトークショーも行う予定だ。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】斎藤巧一郎「私が食べているものを 作っている 人たちのこと」
OM SYSTEM GALLERY(東京・新宿) 10月12日~10月23日