撮影:斎藤巧一郎

黄金色に輝く梅

おむすびの具材である梅干しは和歌山県田辺市の農家が栽培する南高梅。田辺地域は日本一の梅生産地として知られ、太平洋に延びる山の斜面には江戸時代から梅林が育てられてきた。

梅干しづくりには黄色い完熟梅が使われる。

「梅が熟するのは梅雨の時期です。梅雨って、『梅の雨』って書くじゃないですか。かっぱを着て、雨の中で収穫作業をします」

完熟した梅は自然に枝から落下する。それをあらかじめ木の下に張ったネットで集め、テニスのラケットのような網ですくいとる。

収穫した梅は水洗いの後、塩漬けにされる。しばらくすると梅から水分が染み出し、いわゆる「梅酢」が上がってくる。つややかな黄金色の梅は美しく、この状態でもおいしそうだ。

その後、梅酢から引き揚げた梅は天日で「白干し」にされ、良質な梅干しの素材となる。

撮影:斎藤巧一郎

鮎釣りの解禁日は「お祭り」

おむすびの食卓から離れて、高知県・四万十川の鮎も撮影した。そこには斎藤さん少年時代につながる思い出があるという。

出水市中心部を流れる米之津川(こめのつがわ)には春から初夏にかけて鮎の群れが遡上(そじょう)する。

齋藤さんは子どものころ、鮎釣りの解禁日である6月1日を心待ちにしてしていた。

「解禁日がくると、夏がきた、というか、お祭りの日のように感じていました。この日、小学校は休みでした。中学校になると、休みではなくなりましたが、先生が休みを取って鮎釣りに行ってしまうので、授業の半分くらいは自習だった。そんな思い出があって、鮎を写真でかたちにしてみたかったんです」

鮎釣りで有名な川は全国各地にあるが、斎藤さんが訪れた四万十川流域には豊かな自然と人々の暮らしが調和した風景が残されている。

なかでも象徴的なのが水面近くにつくられた「沈下橋」のある風景。齋藤さんが写した写真にも欄干のない沈下橋に高齢者が腰を下ろし、若い釣り人を眺める様子が見える。

「鮎釣りは地元の人の関心事なので、知り合いが釣りをしていると『おう、釣れてるかい?』って、見に来るんです。たくさん鮎が釣れると、近所に配られる。それをみんな楽しみにしている」

鮎は「釣ってよし、見てよし、食べてよし」といわれるように、釣り上がった魚体は鮮やかな黄色味を帯びている。定番の塩焼きのほか、地元では鮎の姿ずしにして食べられる。

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