奈良・興福寺と聞けば、阿修羅像を思い浮かべる人も多いだろう。3つの顔、6本の手を持つ、あのお像だ。たびたびの火災をくぐり抜け、今も現役(?)で同寺国宝館に並んでいる。少年風の面立ち、見た目も華奢なお姿だが、1300年も立ち続けられた秘密はなんなのだろうか? その疑問に応えるべく、研究者たちがCTスキャンで健康診断を敢行! 驚くべき結果をまとめた『阿修羅像のひみつ――興福寺中金堂落慶記念』(朝日選書)が発売された。1300年も立ち続けた阿修羅像の内部はどうなっているのか? 特別に公開する。
■見た目も実際も華奢な阿修羅像
国宝「阿修羅像」は奈良時代の734年、光明皇后の発願で造られ、奈良・興福寺の西金堂に安置された。
それから約1300年の間に、火事や戦災で少なくとも7度は、お堂の外へ「救出」されている。当然、無傷というわけにはいかなかったのだろう。鎌倉時代には全身が補彩され、明治時代に腕などの修理を受けている。
しかし、大きな破損はなく、今も興福寺の国宝館で静かに立ち続けている。見た目には「超」がつくほどの長命で、かなりの健康体だと言えるだろう。
その理由のひとつは、体の軽さにあるに違いない。身長153センチ、体重15キロ。脱活乾漆、つまり漆と布でできた張り子だから、おとなが片手で抱えて楽に運び出すことができる。お堂の中心に座っていたであろう、大きな御本尊に比べれば、はるかに救いやすかったのではないか。
とはいえ、1300歳近い「スーパー後期高齢者」だ。ずっと立ちっぱなしでいるのに、本当に健康なのか。古傷が痛んだりしないんだろうか。腰や肩が痛いのに、無理して我慢を重ねているんじゃないか。人間だったら言葉や表情で訴えることができるが、仏さまとしてはそれも無理に決まっている。
どうしたものか?
幸いなことに、現代には優れた検査技術と機械がある。そうだ、これを使おう!
2009年、阿修羅像が東京、福岡の展覧会に出張されるのに合わせ、研究者たちが動いた。「展覧会場の九州国立博物館で、X線CTスキャンの健康診断を実施してはどうでしょう?」